経済ニュースでは、
「日本のGDPは世界有数の規模だ」
「1人当たりGDPでは順位が低下している」
といった表現を目にすることがあります。
同じGDPを使っているのに、国全体のGDPと1人当たりGDPでは評価が大きく異なることがあります。
そのため、
「GDPと1人当たりGDPは何が違う?」
「GDPが大きい国ほど国民も豊か?」
「人口が減ると1人当たりGDPはどうなる?」
「1人当たりGDPは平均年収と同じ?」
「国際比較では名目と実質のどちらを見る?」
と疑問に感じる人も多いでしょう。
結論からいうと、GDPは国・地域全体で生み出された付加価値の総額を表す指標です。一方、1人当たりGDPはGDPを人口で割り、人口1人当たりに換算した経済規模を表します。
最も簡単に覚えるなら、
GDP=「国全体の経済の大きさ」
1人当たりGDP=「その経済規模を人口1人当たりに換算した数字」
です。
たとえばGDPが600兆円の国でも、人口が1億人なら1人当たりGDPは600万円です。
一方、GDPが300兆円でも人口が3,000万人なら、1人当たりGDPは1,000万円になります。
つまり、
国全体のGDPが大きいことと、1人当たりGDPが高いことは同じではありません。
この記事では、「GDP」と「1人当たりGDP」の違いから、人口減少、経済成長率、名目・実質、為替、購買力平価(PPP)、平均年収、生活水準との違いまで詳しく解説します。
- 「GDP」と「1人当たりGDP」の違い【結論】
- そもそも「GDP」とは?
- GDPで分かるのは「国全体の大きさ」
- 人口が多い国はGDPも大きくなりやすい
- 「1人当たりGDP」とは?
- 1人当たりGDPは「600万円の給料をもらっている」という意味?
- GDPと1人当たりGDPを具体例で比較
- 「GDP世界順位」と「1人当たりGDP順位」が違うのはなぜ?
- GDPが増えても1人当たりGDPが下がることはある?
- GDPが減っても1人当たりGDPが上がることはある?
- 人口減少国では1人当たりGDPが特に重要?
- 「実質GDP」と「実質1人当たりGDP」の違い
- 経済成長を見るならGDPと1人当たりGDPのどちら?
- 「名目1人当たりGDP」と「実質1人当たりGDP」の違い
- 1人当たりGDPは「生活水準」を表す?
- 1人当たりGDPが高くても全員が豊かとは限らない
- 1人当たりGDPと「平均年収」の違い
- 1人当たりGDPと「可処分所得」の違い
- なぜ国際比較では「ドル建て1人当たりGDP」が使われる?
- 円安になると1人当たりGDPは下がる?
- 「購買力平価(PPP)」とは?
- 市場為替レートとPPPはどちらが正しい?
- 世界銀行もPPPを使った比較を行っている
- 1人当たりGDPでは分からないもの
- 「GDP」と「1人当たりGNI」の違い
- 世界銀行の所得分類ではGNIが使われる
- GDP成長率と1人当たりGDP成長率の違い
- 人口減少中にGDP総額を維持する意味
- 「GDP・1人当たりGDP」で迷ったときの3秒判定
- 「GDP」を使った例文
- 「1人当たりGDP」を使った例文
- よくある間違い1:「GDPが大きい国ほど1人当たりGDPも高い」と思う
- よくある間違い2:「1人当たりGDP=平均年収」と思う
- よくある間違い3:「1人当たりGDPが上がれば全員の所得が上がった」と思う
- よくある間違い4:「ドル建て1人当たりGDPが下がれば国内生活水準も同じ割合で下がった」と思う
- よくある間違い5:「1人当たりGDPが高ければ最も暮らしやすい国」と思う
- よくある間違い6:「GDPが横ばいなら1人当たりGDPも横ばい」と思う
- よくある間違い7:「PPPと市場為替レートのGDP順位は同じ」と思う
- 「GDP」と「1人当たりGDP」に関するよくある質問
- まとめ
- 参考資料・出典
「GDP」と「1人当たりGDP」の違い【結論】
| 比較項目 | GDP | 1人当たりGDP |
|---|---|---|
| 基本的な意味 | 国内で生み出された付加価値の総額 | GDPを人口で割った値 |
| 分かること | 国全体の経済規模 | 人口1人当たりの平均的な経済規模 |
| 人口の影響 | 人口が多い国ほど大きくなりやすい | 人口規模の違いを調整できる |
| 国際比較 | 国そのものの経済規模比較に向く | 平均的な経済水準の比較に使いやすい |
| 個人の年収 | 表さない | 表さない |
| 所得格差 | 分からない | 平均値なので分からない |
| 生活の豊かさ | 重要な参考指標 | 参考になるが、それだけでは判断できない |
3秒で判断するなら、
「国全体の経済規模を知りたい?」 → GDP
「人口差をならして比較したい?」 → 1人当たりGDP
と考えると分かりやすいでしょう。
そもそも「GDP」とは?
国内で生み出された付加価値の合計
GDPは、
Gross Domestic Product
の略で、日本語では、
国内総生産
と呼ばれます。
GDPは、一定期間に国内で生産されたモノやサービスについて、新しく生み出された付加価値を合計した指標です。
たとえばパン屋が材料を100円で仕入れ、200円のパンとして販売したとします。
単純化すると、このパン屋が新たに生み出した付加価値は、
200円 − 100円 = 100円
です。
このような付加価値を経済全体で合計したものがGDPです。
GDPで分かるのは「国全体の大きさ」
GDPが大きければ、その国の国内で行われている経済活動の金額規模も大きいと考えられます。
そのため、
- 国の経済規模
- 経済成長率
- 景気動向
- 政府債務との比較
などでGDPは重要な指標として使われます。
ただしGDPの総額には、
人口の多さ
も大きく影響します。
人口が多い国はGDPも大きくなりやすい
単純な例で考えてみましょう。
A国には1億人、B国には1,000万人の人がいるとします。
仮に1人当たりが生み出す付加価値が同じ500万円なら、
A国のGDPは、
500万円 × 1億人 = 500兆円
です。
B国は、
500万円 × 1,000万人 = 50兆円
です。
国全体ではA国のGDPが10倍あります。
しかし、1人当たりで見れば両国とも500万円です。
この人口規模の違いを調整するために使われるのが、
1人当たりGDP
です。
「1人当たりGDP」とは?
GDPを人口で割った指標
1人当たりGDPは、基本的に、
1人当たりGDP = GDP ÷ 人口
で求めます。
世界銀行の統計でも、GDP per capitaはGDPを人口で割って人口1人当たりに換算した指標として定義されています。
たとえば、
GDP:600兆円
人口:1億人
なら、
600兆円 ÷ 1億人 = 600万円
です。
したがって1人当たりGDPは600万円となります。
1人当たりGDPは「600万円の給料をもらっている」という意味?
いいえ。ここは非常に重要です。
1人当たりGDPが600万円だからといって、国民の平均年収が600万円という意味ではありません。
GDPには、
- 会社員などへの賃金
- 企業の利益
- 固定資本減耗
- 政府部門の活動
- 各種の生産活動から生まれる付加価値
などが関係します。
さらに、人口には、
- 子ども
- 学生
- 働いていない人
- 高齢者
も含まれます。
したがって、
1人当たりGDP=平均給与
でも、
1人当たりGDP=平均手取り
でもありません。
GDPと1人当たりGDPを具体例で比較
| 国 | GDP | 人口 | 1人当たりGDP |
|---|---|---|---|
| A国 | 600兆円 | 1億人 | 600万円 |
| B国 | 300兆円 | 3,000万人 | 1,000万円 |
この例では、GDP総額はA国のほうが大きいですが、1人当たりGDPはB国のほうが高くなります。
つまり、
A国=国全体としては大きな経済
B国=人口1人当たりで見ると大きな経済
という違いです。
「GDP世界順位」と「1人当たりGDP順位」が違うのはなぜ?
最大の理由は、
人口が違うから
です。
人口が非常に多い国では、1人当たりGDPがそれほど高くなくても、全員分を合計したGDPは巨大になります。
一方、人口が少ない国でも、高い生産性や高付加価値産業などによって1人当たりGDPが高くなる場合があります。
したがって国際比較では、
経済の「総量」を比較するのか
と、
人口1人当たりの「平均」を比較するのか
を分ける必要があります。
GDPが増えても1人当たりGDPが下がることはある?
あります。
GDPより人口のほうが速く増えた場合です。
たとえば、前年が、
GDP:500兆円
人口:1億人
だったとします。
1人当たりGDPは、
500万円
です。
翌年、
GDP:510兆円(+2%)
人口:1億500万人(+5%)
になったとします。
GDPは増えていますが、1人当たりGDPは、
約486万円
へ低下します。
つまり、
国全体の経済は拡大したが、人口1人当たりでは縮小した
ということが起こります。
GDPが減っても1人当たりGDPが上がることはある?
理論上はあります。
人口の減少率がGDPの減少率より大きければ起こり得ます。
たとえば、
GDP:500兆円 → 495兆円(-1%)
人口:1億人 → 9,800万人(-2%)
となったとします。
国全体のGDPは1%減っています。
しかし人口は2%減っているため、1人当たりGDPは上昇します。
この例から、
GDP総額と1人当たりGDPは別々に見る必要がある
ことが分かります。
人口減少国では1人当たりGDPが特に重要?
人口が減少している国では、GDP総額だけを見ていると経済の姿を捉えにくい場合があります。
たとえば人口が毎年1%減っている国で、実質GDPが横ばいなら、単純化すると1人当たりの生産量は増えていることになります。
反対に、GDPが0.5%増えても人口が1%増えていれば、1人当たりの成長はマイナスになる可能性があります。
そのため、人口動態が大きく変化する国を分析する場合には、
GDP総額+1人当たりGDP
の両方を見ることが重要です。
「実質GDP」と「実質1人当たりGDP」の違い
前の記事で解説したとおり、実質GDPは物価変動の影響を取り除いたGDPです。
そこから人口の影響も取り除いたものが、
実質1人当たりGDP
です。
基本的な考え方は、
実質1人当たりGDP = 実質GDP ÷ 人口
です。
したがって、長期的に、
「人口1人当たりの実質的な経済活動がどれだけ増えたか」
を確認する場合に役立ちます。
経済成長を見るならGDPと1人当たりGDPのどちら?
目的によって異なります。
国全体として経済がどれだけ拡大したかを見るなら、
実質GDP成長率
が重要です。
一方、人口変動も考慮して1人当たりの経済活動がどれだけ成長したかを見るなら、
実質1人当たりGDP成長率
が役立ちます。
| 知りたいこと | 見る指標 |
|---|---|
| 国全体の経済成長 | 実質GDP |
| 人口1人当たりの経済成長 | 実質1人当たりGDP |
| 現在価格で国全体の経済規模 | 名目GDP |
| 現在価格で人口1人当たりの規模 | 名目1人当たりGDP |
「名目1人当たりGDP」と「実質1人当たりGDP」の違い
名目1人当たりGDP
その時点の市場価格で計算した名目GDPを人口で割ります。
物価上昇の影響を受けるため、インフレだけでも増える可能性があります。
実質1人当たりGDP
物価変動を調整した実質GDPを人口で割ったものです。
長期的に1人当たりの実質的な生産活動が増えたかを見る場合には、こちらが重要です。
つまり、
名目=価格変動込み
実質=価格変動を調整
という違いは、1人当たりGDPでも同じです。
1人当たりGDPは「生活水準」を表す?
1人当たりGDPは、平均的な生活水準や経済発展度を比較するための代表的な参考指標として広く使われています。
しかし、
1人当たりGDPだけで実際の生活の豊かさを完全に測ることはできません。
世界銀行も、1人当たりGDPは経済発展を見る代表的な指標である一方、経済成長の成果が人々の間にどのように分配されているかまでは分からないと指摘しています。
1人当たりGDPが高くても全員が豊かとは限らない
1人当たりGDPは、
平均値
です。
たとえば10人の国で、経済的な成果の大部分を1人が得ていて、残り9人の所得が低かったとしても、GDPを人口10人で割れば1人当たりGDPは高くなる場合があります。
つまり、1人当たりGDPだけでは、
- 所得格差
- 貧困率
- 資産格差
- 所得の中央値
などは分かりません。
「平均」と「典型的な個人の生活」を同じものと考えないことが重要です。
1人当たりGDPと「平均年収」の違い
| 1人当たりGDP | 平均年収 |
|---|---|
| GDPを全人口で割る | 対象となる労働者の給与を平均する |
| 企業利益などもGDPに含まれる | 給与所得を対象にする |
| 子ども・高齢者などを含む人口で割る | 通常は給与を受け取る人が対象 |
| 経済活動の平均規模 | 労働者の給与水準 |
したがって、
「1人当たりGDPが600万円だから平均年収も600万円」
という理解は間違いです。
1人当たりGDPと「可処分所得」の違い
可処分所得とは、所得から税金や社会保険料などを差し引き、消費や貯蓄に回せる所得です。
一方、1人当たりGDPは国全体の付加価値を人口で割ったものです。
つまり、
1人当たりGDP=経済活動の平均規模
可処分所得=家計が実際に使える所得
です。
生活実感を見るなら、1人当たりGDPだけでなく、実質賃金や可処分所得も重要になります。
なぜ国際比較では「ドル建て1人当たりGDP」が使われる?
日本では円、米国ではドル、英国ではポンドのように、国ごとに通貨が異なります。
そのままでは比較できないため、国際比較では各国のGDPを米ドルなど共通通貨へ換算します。
そこで、
1人当たりGDP(米ドル)
が利用されることがあります。
ただし、この比較には大きな注意点があります。
為替レートの影響
です。
円安になると1人当たりGDPは下がる?
ドル換算で比較する場合、円安になれば、円で計算したGDPが変わらなくてもドル換算額が小さくなることがあります。
たとえば1人当たりGDPが500万円だとします。
1ドル100円なら、
5万ドル
です。
しかし1ドル150円なら、
約3万3,333ドル
になります。
国内で生み出した円ベースの金額が同じでも、ドル換算では大幅に減ります。
したがって、
ドル建て1人当たりGDPの順位低下=国内の生産力が同じ割合だけ低下した
とは限りません。
「購買力平価(PPP)」とは?
為替レートだけで国際比較すると、各国の物価水準の違いを十分に反映できません。
そこで使われるのが、
購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)
です。
購買力平価は、同じような商品・サービスを各国で購入するときに必要となる金額を比較し、物価水準の違いを調整する考え方です。
そのため国際比較では、
- 市場為替レートによる1人当たりGDP
- PPPベースの1人当たりGDP
の両方が使われます。
市場為替レートとPPPはどちらが正しい?
どちらか一方が常に正しいわけではありません。
用途が異なります。
市場為替レートによる名目GDPは、
- 国際金融
- 外貨での購買力
- 世界市場での経済規模
などを見る際に重要です。
一方、PPPは国内の物価差を調整するため、
各国住民の実質的な消費可能量や生活水準を比較するときの参考
になりやすい指標です。
世界銀行もPPPを使った比較を行っている
世界銀行の国際比較プログラム(ICP)でも、各国の物価水準を調整したPPPを使い、GDPや1人当たりGDPなどの比較を行っています。
世界銀行は、GDP per capitaについて平均的な物質的生活水準を見る一つの指標になり得る一方、必ずしも人々の実際の生活水準を完全に表すものではないと説明しています。
特に生活水準を考える場合には、GDPだけでなく家計が実際に消費している財・サービスなども見る必要があります。
1人当たりGDPでは分からないもの
1人当たりGDPだけでは、次のような要素を十分に把握できません。
- 所得・資産の格差
- 労働時間
- 余暇の長さ
- 医療・教育の質
- 環境の質
- 治安
- 家事・育児など市場で取引されない活動
- 生活満足度
したがって、
1人当たりGDPが最も高い国=必ず最も暮らしやすい国
とは限りません。
「GDP」と「1人当たりGNI」の違い
前の記事で解説したGNI(国民総所得)にも、1人当たりの指標があります。
1人当たりGDPは、国内で生み出した付加価値を人口で割ります。
1人当たりGNIは、国内外から居住者に帰属する所得を人口で割ります。
海外投資収益の多い国などでは、1人当たりGDPと1人当たりGNIに差が生じることがあります。
世界銀行の所得分類ではGNIが使われる
世界銀行が各国・地域を所得水準によって分類するときには、GDPではなく、
1人当たりGNI
を利用しています。
これは、国内での生産額だけでなく、その国の居住者に帰属する所得を見る考え方です。
ただし世界銀行自身も、1人当たりGNIが国民の福祉・生活の質そのものを直接測る指標ではなく、所得分配の格差も表さないことに注意を促しています。
GDP成長率と1人当たりGDP成長率の違い
人口増減がある場合、両者は一致しません。
単純化すると、
1人当たりGDP成長率 ≒ GDP成長率 − 人口増加率
と考えることができます。
たとえば、
実質GDP成長率:+3%
人口増加率:+1%
なら、実質1人当たりGDPの成長率はおおむね2%程度です。
反対に、
実質GDP成長率:0%
人口増加率:-1%
なら、単純化すると1人当たりGDPは約1%増える方向になります。
厳密な計算では割り算になるため、これは近似です。
人口減少中にGDP総額を維持する意味
人口が減っているにもかかわらず実質GDP総額を維持できている場合、単純化すれば、人口1人当たりの生産活動は増えていることになります。
背景には、
- 労働生産性の向上
- 設備投資
- 技術革新
- 高付加価値化
- 就業率の変化
などが考えられます。
そのため人口減少社会では、GDP総額だけでなく、
1人当たりの実質的な経済成長
にも注目する意味があります。
「GDP・1人当たりGDP」で迷ったときの3秒判定
| 知りたいこと | 見る指標 |
|---|---|
| 国全体の経済規模 | GDP |
| 国全体の実質的な経済成長 | 実質GDP |
| 人口差を調整した経済規模 | 1人当たりGDP |
| 人口差と物価変動を調整した成長 | 実質1人当たりGDP |
| 為替レート込みで世界比較 | ドル建て名目1人当たりGDP |
| 国ごとの物価差も調整して比較 | PPPベース1人当たりGDP |
| 労働者の給料を知りたい | 平均賃金・中央値など |
「GDP」を使った例文
- 個人消費の増加によってGDPが拡大した。
- 国全体の経済規模を比較するためGDPを確認する。
- 人口が多い国はGDP総額も大きくなりやすい。
- 実質GDPは前年度より増加した。
- 経済規模の大きさだけでは生活水準を判断できない。
「1人当たりGDP」を使った例文
- 人口規模を調整するため1人当たりGDPで比較する。
- 人口減少により、GDP総額と1人当たりGDPの動きが異なった。
- 1人当たりGDPは平均年収を表す指標ではない。
- 国際比較では為替レートが1人当たりGDPに影響する。
- 長期的な生活水準を考える際には実質1人当たりGDPも参考になる。
よくある間違い1:「GDPが大きい国ほど1人当たりGDPも高い」と思う
人口が異なるため、必ずしもそうではありません。
人口が多い国はGDP総額が大きくても、1人当たりでは別の順位になることがあります。
よくある間違い2:「1人当たりGDP=平均年収」と思う
1人当たりGDPはGDPを全人口で割った指標です。
労働者が受け取る給与の平均ではありません。
よくある間違い3:「1人当たりGDPが上がれば全員の所得が上がった」と思う
1人当たりGDPは平均値です。
所得分配が偏っていれば、1人当たりGDPが増えても所得が増えない人がいる可能性があります。
よくある間違い4:「ドル建て1人当たりGDPが下がれば国内生活水準も同じ割合で下がった」と思う
市場為替レートの変動によってドル換算値は大きく変わります。
為替の影響と国内の実質的な経済変化を分けて考える必要があります。
よくある間違い5:「1人当たりGDPが高ければ最も暮らしやすい国」と思う
1人当たりGDPでは、所得格差、医療、教育、環境、余暇など多くの要素を十分に把握できません。
生活の質を見る場合は他の指標も必要です。
よくある間違い6:「GDPが横ばいなら1人当たりGDPも横ばい」と思う
人口が変化すれば1人当たりGDPも変化します。
人口減少中なら、GDP総額が横ばいでも1人当たりGDPが上昇する場合があります。
よくある間違い7:「PPPと市場為替レートのGDP順位は同じ」と思う
PPPでは各国の物価水準を調整するため、市場為替レートで換算した順位とは異なることがあります。
比較目的に応じて使い分ける必要があります。
「GDP」と「1人当たりGDP」に関するよくある質問
Q1. GDPと1人当たりGDPの一番簡単な違いは?
GDPは国全体の経済規模、1人当たりGDPはGDPを人口で割った平均的な経済規模です。
Q2. 1人当たりGDPはどう計算しますか?
基本的には、
GDP ÷ 人口
で計算します。
Q3. 1人当たりGDPは平均所得ですか?
違います。
GDPには賃金だけでなく企業利益などさまざまな付加価値が含まれ、さらに全人口で割るため、平均給与とは一致しません。
Q4. GDPが増えたのに1人当たりGDPが下がることはありますか?
あります。
人口がGDPより速く増えれば、1人当たりGDPは下がる可能性があります。
Q5. 人口減少なら1人当たりGDPは必ず上がりますか?
いいえ。
GDPの減少速度が人口減少より大きければ、1人当たりGDPも下がります。
Q6. 生活水準の比較には1人当たりGDPが一番よいですか?
代表的な参考指標ではありますが、完全ではありません。
所得格差、実質賃金、可処分所得、健康、教育、環境なども確認する必要があります。
Q7. 国際比較では名目と実質のどちらを見ればよいですか?
現在の金額規模を市場為替レートで比較するなら名目値が使われます。
時間の経過に伴う実質的な成長を見る場合は、物価変動を調整した実質値が適しています。
Q8. PPPベースの1人当たりGDPとは何ですか?
各国の物価水準の違いを購買力平価で調整した1人当たりGDPです。
異なる国で実際に購入できる財・サービスの量を比較する際の参考になります。
Q9. 円安になると日本のドル建て1人当たりGDPはどうなりますか?
他の条件が同じなら、円安はドル換算した1人当たりGDPを低下させる方向に働きます。
そのためドル建て順位の変動には為替の影響もあります。
Q10. GDPと1人当たりGDPのどちらを重視すべきですか?
目的によります。
国家全体の経済力や市場規模を見るならGDP、人口規模を調整して平均的な経済水準を比較するなら1人当たりGDPが役立ちます。
経済を総合的に見るなら両方を確認するのが適切です。
まとめ
「GDP」と「1人当たりGDP」は、どちらも経済規模を見る重要な指標ですが、見ている対象が異なります。
| GDP | 1人当たりGDP |
|---|---|
| 国全体の付加価値 | GDPを人口で割った値 |
| 経済全体の規模を見る | 人口差を調整して比較する |
| 人口が多い国ほど大きくなりやすい | 人口の多さそのものの影響を小さくできる |
| 平均所得ではない | 平均年収ではない |
最も簡単な覚え方は、
GDP=「国全体」
1人当たりGDP=「国全体÷人口」
です。
たとえば、
A国:GDP600兆円・人口1億人
なら1人当たりGDPは600万円です。
B国:GDP300兆円・人口3,000万人
なら1人当たりGDPは1,000万円です。
GDP総額ではA国が大きくても、1人当たりではB国のほうが高くなります。
また、人口が変化すれば、GDPと1人当たりGDPの動きが異なることもあります。
GDPが増えても、人口がそれ以上に増えれば1人当たりGDPは下がる
ことがあります。
反対に、
GDPが横ばいでも人口が減れば、1人当たりGDPは上がる
可能性があります。
ただし、1人当たりGDPはあくまで平均的な経済規模です。
それだけでは、
- 平均年収
- 所得格差
- 可処分所得
- 生活費
- 医療や教育
- 生活の質
までは分かりません。
関連する指標まで整理すると、
GDP=国内で生み出された付加価値の総額
1人当たりGDP=GDPを人口で割った値
実質GDP=物価変動を取り除いたGDP
実質1人当たりGDP=実質GDPを人口で割った値
ドル建て1人当たりGDP=為替レートの影響を受ける国際比較指標
PPPベース1人当たりGDP=各国の物価水準の違いを調整した指標
1人当たりGNI=国内外から居住者に帰属する所得を人口で割った値
となります。
経済ニュースを見るときは、
「国全体の規模を話しているのか」
それとも、
「人口1人当たりの平均的な経済規模を話しているのか」
を確認するだけでも、GDPに関するニュースをより正確に理解できるでしょう。
参考資料・出典
-
内閣府「国民経済計算」
― GDP、GNI、1人当たりGDPなど日本の国民経済計算に関する各種統計を公表 -
内閣府「長期経済統計―国民経済計算」
― 国内総生産、国民総所得、1人当たりGDPなどの長期系列を掲載 -
World Bank「World Development Indicators:GDP per capita」
― 1人当たりGDPをGDPを人口で割った指標として定義し、名目・実質の各系列を公表 -
World Bank「International Comparison Program(ICP)」
― 購買力平価(PPP)を用いたGDP・1人当たりGDP等の国際比較を実施し、1人当たりGDPと生活水準を比較するときの注意点も解説 -
OECD「Growth and economic well-being」
― 実質1人当たりGDPを、物価調整後のGDPを人口1人当たりで示した指標として解説するとともに、GDPだけでは人々の物質的な生活状態を十分に把握できないことを説明
※1人当たりGDPはGDPを人口で割った平均値であり、平均給与・平均年収・可処分所得を意味するものではありません。
※1人当たりGDPが上昇しても、その経済成長の成果がすべての人へ均等に分配されているとは限りません。所得格差や生活実態を見る場合には、所得中央値、実質賃金、可処分所得、貧困率なども確認する必要があります。
※ドル換算の名目1人当たりGDPは為替レートの影響を受けます。国際順位の変化が、そのまま国内の実質的な生活水準の同率の変化を意味するわけではありません。
※PPPベースの1人当たりGDPは国ごとの物価水準を調整するため、生活水準の国際比較に有用ですが、所得分配、医療、教育、環境、余暇などの違いをすべて反映する指標ではありません。
