「新しい施策を立案する」「購入申請を起案する」。どちらも「案を作る」という意味を持つため、同じ言葉のように使われることがあります。しかし、案を考える段階と、正式な文書として意思決定の手続に乗せる段階では、適した言葉が異なります。
「立案」は、目的を達成するための計画や方策を考えて組み立てること。「起案」は、正式な決裁や承認を得るため、原案・文書を作成することです。
簡単にいえば、何をどのように行うかを考えるなら「立案」、その内容を起案書や申請文書にまとめて組織の手続を始めるなら「起案」が使いやすいでしょう。ただし、辞書上はどちらも草案を作る意味を持ち、実際の職場では範囲が重なることもあります。
この記事では、辞書と官公庁の文書管理規程をもとに、「起案」と「立案」の違いを解説します。企画、事業計画、稟議、契約、行政文書での使い分けや、「提案」「企画」「稟議」「決裁」との違い、自然な例文、迷ったときの3秒判定まで整理します。
結論:「立案」は計画を組み立てること、「起案」は正式な原案・文書を作ること
最初に結論をまとめると、次のように使い分けられます。
- 立案:目的、課題、条件を踏まえ、計画や方策となる案を考えて組み立てること
- 起案:正式な決定・決裁の基となる原案や文書を作成すること
たとえば、新商品の販売方法や予算配分を考える段階は「販売計画を立案する」です。その計画を実行するため、必要性、費用、効果、実施時期などを起案書にまとめて上司へ回す段階は「販売計画について起案する」と表現できます。
3秒で判断するなら、「計画の中身を考えるなら立案」「正式な判断を受ける文書を作るなら起案」です。立案した内容をもとに起案する、という順番になることもあります。
【徹底比較】「起案」と「立案」の違い
| 比較項目 | 起案 | 立案 |
|---|---|---|
| 読み方 | きあん | りつあん |
| 意味の中心 | 正式な原案・文書を作る | 計画・方策となる案を考える |
| 主な目的 | 決裁・承認などの判断を受ける | 目的達成の方法を具体化する |
| 主な対象 | 起案書、決裁文書、規程案、契約案 | 事業計画、政策、戦略、施策、企画 |
| 文書の必要性 | 正式な文書作成と結びつきやすい | 文書化することが多いが必須とは限らない |
| 使う場面 | 会社・官公庁の意思決定手続 | 会社、行政、団体、個人の計画作り |
| 次の段階 | 回議、合議、承認、決裁 | 検討、提案、起案、実行計画化 |
| よく使う表現 | 文書を起案する、起案者、再起案 | 計画を立案する、政策立案、立案担当 |
両者は完全に分離できるわけではありません。「立案」にも草案や文案を作る意味があり、「起案」にも案を考える作業が含まれます。それでも実務では、構想や計画の設計に重点があるか、正式な文書と意思決定手続に重点があるかで区別すると分かりやすくなります。
「起案」とは?正式な決定の基となる案・文書を作ること
辞書で示される「起案」の意味
「起案」は、公式文書などの草案を作ること、正式なものの基となる案や文書を作ることを表します。複数の辞書・事典の説明は、コトバンク「起案」で確認できます。
「起」は物事を始めること、「案」は考えや下書きを表します。起案は、単に思いつきを出すことではなく、組織が判断できる形へ案を整え、意思決定の手続を開始するという性質を持ちます。
代表的な対象は、物品購入、契約締結、出張、採用、予算執行、規程の制定・改廃、通知文書などです。担当者が案件の目的や内容を整理し、決裁権者が判断できる文書を作ります。
起案は「決裁の前」に行う
起案と決裁は同じではありません。起案は判断を求める案を作成する段階であり、決裁は権限者がその案について最終的な意思を決める段階です。
たとえば、担当者が設備購入の必要性、価格、選定理由、予算科目を記載した文書を作るのが起案です。その文書を課長や部長などの決裁権者が確認し、実施の可否を決めるのが決裁です。起案しただけでは、購入が正式に認められたことにはなりません。
起案後には、関係者への回議、関係部署との合議、途中承認、最終決裁などが行われることがあります。具体的な経路は組織の規程やワークフローによって異なります。
起案文書には判断材料をそろえる
起案文書は、結論だけを書けばよいわけではありません。決裁者が妥当性を判断できるよう、目的、背景、根拠、費用、効果、リスク、実施時期、関係部署との調整状況などを示します。
厚生労働省の文書取扱規則では、決裁文書の起案を原則として文書管理システムで行い、意思決定に至った経緯、基礎的資料などを添付して決裁を受けることが定められています。実際の規定は、厚生労働省文書取扱規則で確認できます。
「立案」とは?計画や方策となる案を考えて組み立てること
辞書で示される「立案」の意味
「立案」は、工夫して計画を立てること、案を立てることを表します。また、草案や文案を作る意味でも使われます。辞書の説明は、コトバンク「立案」で確認できます。
「事業計画を立案する」「政策を立案する」「販売戦略を立案する」のように、目的を実現するための方法や手順を考え、実行可能な案へまとめる場面で使われます。
立案では、何をするかだけでなく、なぜ行うのか、誰を対象にするか、いつまでに何をするか、どの資源を使うか、どのように成果を測るかまで設計することが重要です。
立案は正式な承認手続がなくても使える
立案は、必ずしも上司の決裁を受ける文書作成だけを指しません。チーム内でイベント案を考える、個人が学習計画を作る、研究者が調査計画を組み立てる場合にも使えます。
ただし「今夜の献立を立案する」のように日常の小さな選択に使うと、必要以上に硬く大げさに聞こえることがあります。立案は、複数の条件を整理して計画を作る、やや改まった場面に向く言葉です。
立案した内容が組織の承認を必要とする場合は、その案を正式な文書に整えて起案します。つまり、立案は内容設計、起案は正式な手続への接続と考えることができます。
「起案」と「立案」の決定的な違い
違い1:案の「内容」を作るか、正式な「文書」を起こすか
立案では、課題に対してどの方法を採用するか、どのような順序で実施するかなど、案の中身を組み立てます。起案では、その内容を決裁・承認の対象となる文書に落とし込みます。
立案の例:「顧客の利用状況を分析し、解約率を下げる施策を立案する。」
起案の例:「立案した施策の実施費用を算出し、キャンペーン実施について起案する。」
前者は施策の設計、後者は組織として実施するための正式な判断依頼です。
違い2:立案は検討段階、起案は意思決定手続の出発点になりやすい
立案中は、複数の選択肢を比較したり、条件を変更したりできます。案がまだ固まっていない段階でも、「現在、改善策を立案中です」と表現できます。
起案する段階では、誰に何を判断してもらうのかを明確にしなければなりません。結論、理由、実施条件、必要な費用などをそろえ、組織の定める様式や経路へ載せます。
違い3:起案には起案者と決裁者、立案には立案者と実行案がある
起案では、文書を作成する「起案者」と、最終判断を行う「決裁者」が区別されます。起案者が自分で最終決裁できるとは限りません。
立案では、担当者やチームが目的に合う案を作ります。その案を誰が承認するかは「立案」という言葉だけでは決まりません。自分の権限内で実行する場合も、別の権限者へ提案・起案する場合もあります。
場面別:「起案」と「立案」の使い分け
新規事業・商品企画:構想を具体化するなら「立案」
新規事業の対象顧客、提供価値、収益方法、必要な人員などを考える作業は「事業計画を立案する」が自然です。まだ複数案を比較している段階なら、「起案する」よりも「立案する」「企画する」が適しています。
立案では、組織の進む方向と実現方法を分けて考えることが大切です。計画の上位概念を整理する際は、「方針」と「戦略」の違いも参考になります。
稟議・申請:決裁を求める文書を作るなら「起案」
備品購入、外部委託、広告出稿、契約締結などについて、決裁を得るための文書を作成する場合は「起案する」が自然です。「購入稟議を起案する」「契約締結について起案する」のように使います。
承認経路の途中にいる人が内容を確認しただけで、最終決裁が済んだとは限りません。手続の各段階を表す言葉については、「確認」と「承認」の違いも参考になります。
行政・規程作成:内容設計と決裁文書を分ける
行政では、「政策を立案する」「条例案を立案する」といった表現が使われます。一方、決裁を受けるために通知、回答、契約、規程改正などの原案を文書管理システムへ登録する作業は「起案」と呼ばれます。
一つの案件で両方が使われることもあります。担当部署が制度改正案を立案し、関係部署との調整を経て、改正内容を正式な決裁文書として起案する、という流れです。
会議:案を考えるのは「立案」、案を示すのは「提案」
会議前に改善策を考えてまとめる作業は立案です。その案を会議で示し、採用を求める行為は提案です。会議で採用された後、正式な決裁が必要なら起案します。
「立案」と「提案」は、作ることと相手に示すことの違いがあります。案を示す相手や目的を整理するには、「提案」と「提言」の違いも役立ちます。
「起案」「立案」と関連語の違い
| 言葉 | 意味の中心 | 代表例 |
|---|---|---|
| 立案 | 計画・方策となる案を組み立てる | 販売戦略を立案する |
| 起案 | 正式な判断の基となる原案・文書を作る | 購入申請を起案する |
| 企画 | 新しい事業・催しなどを構想し具体化する | 研修会を企画する |
| 提案 | 案を相手に示して検討を求める | 改善案を会議で提案する |
| 稟議 | 案を関係者へ回し、承認・決裁を求める手続 | 設備購入を稟議にかける |
| 決裁 | 権限者が案を最終的に判断する | 部長が起案を決裁する |
立案と企画の違い
企画は、新しい事業、商品、催しなどを発想し、その目的や内容を考えることです。立案は、企画を実現する方法や手順を含め、実行可能な計画へ組み立てる意味で使いやすい言葉です。
ただし、「企画を立案する」「事業を企画する」のように両者は大きく重なります。職場の役割名でも「企画担当」「政策立案担当」など、対象や組織によって使い分けが異なります。
起案と提案の違い
起案は原案や正式文書を作ること、提案はその案を相手に示して検討を求めることです。口頭で改善案を述べるだけでも提案になりますが、通常、それだけで正式な起案とはいいません。
起案文書を提出する行為には提案の性質がありますが、起案は文書作成と意思決定手続に重点があります。
起案と稟議の違い
起案は、決裁の基となる案・文書を作成することです。稟議は、その文書を関係者や上司へ回し、承認を求める手続を指します。
したがって、「担当者が稟議書を起案し、関係部署へ回議した後、決裁権者が決裁する」という流れで整理できます。実際の用語と順番は社内規程を優先してください。
間違いやすい使い方と自然な書き換え
例1:計画を考え始めただけで「起案した」とする
誤解を招く例:「来年度の研修内容を話し合い、起案しました。」
計画段階なら:「来年度の研修計画を立案しました。」
決裁文書まで作ったなら:「来年度の研修計画をまとめ、実施について起案しました。」
案の検討だけなのか、正式な文書作成まで終えたのかを区別します。
例2:起案した時点で実施が決まったと考える
不正確な例:「設備更新を起案したので、来月から工事を始めます。」
自然な例:「設備更新について起案しました。決裁後、工事日程を確定します。」
起案は判断を求める段階です。決裁前に契約、発注、公表などを進めてよいかは、組織のルールを確認する必要があります。
例3:相手に案を示すことを「立案」と呼ぶ
曖昧な例:「会議で新しい勤務制度を立案しました。」
案を示したなら:「会議で新しい勤務制度を提案しました。」
会議で案を作ったなら:「会議で新しい勤務制度の案を立案しました。」
「考えて作る」のか、「相手に示す」のかを明確にすると自然です。
例4:「起案者」と「決裁者」を混同する
誤解を招く例:「部長に起案してもらい、担当者が決裁した。」
一般的な流れ:「担当者が起案し、部長が決裁した。」
役職だけで決めつけることはできませんが、起案者は案を作る人、決裁者は最終判断の権限を持つ人です。
「起案」と「立案」を使った例文
「起案」の例文
- 老朽化した設備の更新について起案する。
- 契約書案と見積書を添付し、稟議書を起案した。
- 前回の指摘を反映して、決裁文書を再起案する。
- 起案者は、費用の算定根拠を明記してください。
- 担当者が通知文を起案し、課長の決裁を受けた。
- 電子決裁システムで出張申請を起案する。
「立案」の例文
- 市場調査の結果をもとに、販売戦略を立案する。
- 災害時の事業継続計画を立案した。
- 各部門の課題を整理し、改善施策を立案する。
- 政策立案には、現状分析と関係者の意見が必要です。
- 目標達成までの実行計画をチームで立案した。
- 複数のシナリオを比較し、代替案を立案する。
実務で使い分けるための5ステップ
- 目的を確認する:計画の中身を作るのか、権限者の判断を得るのかを分けます。
- 現在の段階を確認する:構想中、立案中、関係者調整中、起案済み、決裁中、決裁済みを区別します。
- 成果物を確認する:実行計画や施策案なら立案、決裁に回す正式文書なら起案が適します。
- 誰が次に判断するか確認する:上司や役員の決裁を求めるなら、起案に必要な情報と添付資料をそろえます。
- 組織の規程を優先する:起案、申請、稟議、承認などの名称や範囲は組織ごとに異なるため、文書管理規程や権限表を確認します。
進捗を伝えるときは、「企画を立案中」「関係部署と調整済み」「本日起案」「部長決裁待ち」のように段階を具体的に書くと、次に必要な行動が明確になります。
迷ったときの3秒判定
「起案」と「立案」で迷ったら、次の順番で考えます。
- 計画・政策・施策の中身を考える? → 「立案」
- 目的達成の方法や手順を組み立てる? → 「立案」
- 決裁・承認の基となる正式文書を作る? → 「起案」
- 稟議書や決裁文書をシステムへ登録する? → 「起案」
- 作った案を相手に示す? → 「提案」も検討する
| 場面 | 選ぶ言葉 |
|---|---|
| 新規事業の実行計画を考える | 立案 |
| 広報戦略を組み立てる | 立案 |
| 設備購入の決裁文書を作る | 起案 |
| 規程改正案を文書管理システムへ登録する | 起案 |
| 改善案を会議で示す | 提案 |
一言で覚えるなら、立案=案の中身を組み立てる、起案=正式な判断を受ける文書を起こすです。
「起案」と「立案」に関するよくある質問
Q1. 「起案」と「立案」は同じ意味ですか?
どちらも案を作る意味があり、辞書上の範囲は重なります。ただし、実務では「立案」は計画・方策を考えて組み立てること、「起案」は正式な決裁・承認の基となる原案や文書を作ること、という違いを意識すると使い分けやすくなります。
Q2. 企画書を作るのは起案ですか、立案ですか?
企画の目的、内容、方法を考えて企画書にまとめる作業は「立案」と表現できます。その企画書を添付し、実施の決裁を求める正式文書を作るなら「起案」です。企画書自体が社内の起案様式を兼ねる場合は、両方の性質を持ちます。
Q3. 起案したら、実施してよいのですか?
通常、起案しただけでは実施の許可を得たことになりません。必要な回議・合議・承認を経て、決裁権者の決裁を受ける必要があります。緊急時や少額案件などの扱いは、組織の権限規程に従います。
Q4. 「起案を上げる」は正しい表現ですか?
職場の会話ではよく使われますが、文書では「起案する」「起案文書を提出する」「決裁を仰ぐ」と書くと意味が明確です。「上げる」は、作成、申請、回付のどの段階を指すのか曖昧になる場合があります。
Q5. 「政策を起案する」と「政策を立案する」はどう違いますか?
政策の目的、対象、手段、効果などを設計することに焦点を当てるなら「政策を立案する」が一般的です。その政策案を正式な意思決定の対象となる文書として作成することに焦点を当てるなら「政策案を起案する」と表現できます。
Q6. 起案書と稟議書は同じものですか?
組織によっては同じ様式やほぼ同じ意味で扱われますが、厳密には、起案書は決定の基となる原案を記載した文書、稟議書は関係者へ回して承認・決裁を求める文書です。名称よりも、自社の規程での定義と処理方法を確認してください。
まとめ
「起案」と「立案」は、どちらも案を作ることに関係しますが、重点が異なります。
- 立案:目的を達成するため、計画や方策となる案の中身を考えて組み立てること
- 起案:正式な決定・決裁の基となる原案や文書を作り、意思決定手続を始めること
事業計画、政策、戦略、改善施策などを考える段階なら「立案」が自然です。購入、契約、予算執行、規程改正などについて、権限者の判断を得る文書を作るなら「起案」を使います。
実務では、立案、提案、調整、起案、承認、決裁という段階を分けて伝えることが重要です。「何を考えている段階か」「正式な文書を作成したか」「誰の判断を待っているか」を明確にすれば、二つの言葉を正確に使い分けられます。
参考資料・出典
- コトバンク「起案」(デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典など)
- コトバンク「立案」(デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典など)
- 厚生労働省文書取扱規則(決裁文書の起案、合議、決裁の手続)
- 国土交通省「地方整備局文書管理規則」(起案文書、決裁、専決、廃案の取扱い)
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