Wi-Fiルーターや無線LANの仕様を見ていると、
「MIMO」
「MU-MIMO」
という言葉がよく登場します。
さらに製品仕様には、
「2×2 MIMO」
「4×4 MU-MIMO」
「4ストリーム」
などと書かれていることもあります。
すると、
「MIMOとMU-MIMOは何が違う?」
「アンテナの本数が多ければ速い?」
「2×2と4×4は何を表している?」
「MU-MIMOなら1台のスマートフォンも速くなる?」
「Wi-Fi 6やWi-Fi 7ではどう進化した?」
と疑問に感じることがあります。
結論からいうと、MIMOは複数の送受信アンテナを利用して複数の空間ストリームを扱う技術の総称です。そのうち、1台の端末へ複数ストリームを使う方式をSU-MIMO、複数の端末へ異なるストリームを同時に割り当てる方式をMU-MIMOと呼びます。
一言で覚えるなら、
MIMO=「複数アンテナ・複数ストリームを利用する仕組み」
SU-MIMO=「1台へ複数ストリーム」
MU-MIMO=「複数台へストリームを振り分ける」
です。
IEEEの802.11n関連資料では、Wi-Fi 4に相当するIEEE 802.11nがMIMOを本格導入し、最大4本の空間ストリームを利用できるようになったことが説明されています。
その後、Wi-Fi 5のIEEE 802.11acでダウンリンクMU-MIMOが導入され、Wi-Fi 6のIEEE 802.11axではアップリンクMU-MIMOも加わりました。
この記事では、「MIMO」と「MU-MIMO」の違いから、SU-MIMO、空間ストリーム、2×2・4×4、ビームフォーミング、OFDMA、Wi-Fi 4・5・6・6E・7との関係まで詳しく解説します。
- 「MIMO」と「MU-MIMO」の違い【結論】
- 「MIMO」とは?
- MIMOではなぜ複数の信号を送れる?
- 「空間ストリーム」とは?
- 「2×2 MIMO」とは?
- 4×4なら2×2の必ず2倍速い?
- 「SU-MIMO」とは?
- SU-MIMOを「高速道路」で例えると?
- 「MU-MIMO」とは?
- MU-MIMOを「高速道路」で例えると?
- MIMOとMU-MIMOは別々の技術?
- MU-MIMOは1台の端末を高速化する技術?
- Wi-Fi 4とMIMOの関係
- Wi-Fi 5とMU-MIMOの関係
- Wi-Fi 5ではアップロード時もMU-MIMO?
- Wi-Fi 6ではMU-MIMOがどう進化した?
- 「アップリンクMU-MIMO」とは?
- Wi-Fi 6EでもMU-MIMOは使える?
- Wi-Fi 7でもMU-MIMOは使う?
- Wi-Fi 7は16空間ストリーム?
- 「ビームフォーミング」とMU-MIMOの関係
- ビームフォーミングとMU-MIMOは同じ?
- 「MIMO」と「OFDMA」の違い
- OFDMAがあればMU-MIMOは不要?
- MU-MIMOは端末同士が離れているほうが有利?
- MU-MIMOは常に有効になる?
- MU-MIMO対応ルーターなら古い端末もMU-MIMOになる?
- 「8×8ルーター」と「2×2スマホ」の関係
- 「アンテナ本数」と「空間ストリーム数」は同じ?
- 「2×2」「4×4」はWi-Fi速度とどう関係する?
- MU-MIMOならWi-Fiの「順番待ち」がなくなる?
- MU-MIMOは家庭でも効果がある?
- オンラインゲームではMU-MIMOが重要?
- 動画視聴ではMU-MIMOが有効?
- 「MIMO・MU-MIMO」で迷ったときの3秒判定
- 「MIMO」を使った例文
- 「MU-MIMO」を使った例文
- 具体例で比較:1台のPCへ大容量ファイルを送る
- 具体例で比較:3台の端末が同時に動画を見る
- よくある間違い1:「MIMOとMU-MIMOは完全に別物」と思う
- よくある間違い2:「MIMOなら必ず複数端末へ同時通信できる」と思う
- よくある間違い3:「4×4ルーターなら2×2スマホも4ストリームで通信できる」と思う
- よくある間違い4:「アンテナが4本あれば必ず4ストリーム」と思う
- よくある間違い5:「MU-MIMOはWi-Fi 6で初登場した」と思う
- よくある間違い6:「MU-MIMOとOFDMAは同じ」と思う
- よくある間違い7:「Wi-Fi 7なら16ストリームを1台へ送れる」と思う
- 「MIMO」と「MU-MIMO」に関するよくある質問
- まとめ
- 参考リンク・出典
「MIMO」と「MU-MIMO」の違い【結論】
| 比較項目 | MIMO・SU-MIMO | MU-MIMO |
|---|---|---|
| 正式名称 | Multiple Input Multiple Output | Multi-User Multiple Input Multiple Output |
| 基本的な考え方 | 複数アンテナを使って複数ストリームを扱う | 複数ユーザーへ異なるストリームを同時割り当て |
| 通信相手 | SU-MIMOでは1台 | 複数端末 |
| 主な目的 | 1台との通信速度・信頼性向上 | ネットワーク全体の同時通信効率向上 |
| Wi-Fi 4 | MIMOを本格導入 | 非対応 |
| Wi-Fi 5 | 対応 | ダウンリンクMU-MIMO |
| Wi-Fi 6 / 6E | 対応 | ダウンリンク+アップリンクMU-MIMO |
| Wi-Fi 7 | 引き続き利用 | 引き続き重要なマルチユーザー技術 |
3秒で判断するなら、
「1台に複数の空間ストリーム?」 → SU-MIMO
「複数台に別々の空間ストリーム?」 → MU-MIMO
と考えると分かりやすいでしょう。
「MIMO」とは?
複数の送信・受信アンテナを利用する通信技術
MIMOは、
Multiple Input Multiple Output
の略です。
直訳すると、
複数入力・複数出力
です。
無線通信で複数の送信アンテナと受信アンテナを利用し、同じ周波数・同じ時間の中で複数の信号を扱います。
Wi-Fiでは、IEEE 802.11n、つまりWi-Fi 4でMIMOが大きな特徴として導入されました。
IEEE Technology Navigatorでは、802.11nについて、複数アンテナによって独立したデータストリームを同時に送り、通信速度を高める仕組みとして説明しています。
MIMOではなぜ複数の信号を送れる?
無線LANでは、送信した電波が必ず一直線に端末へ届くわけではありません。
電波は、
- 壁
- 床
- 天井
- 家具
- 建物
などで反射し、複数の経路を通って受信機へ到達します。
これを、
マルチパス
と呼びます。
以前はマルチパスが通信を乱す原因になることもありました。
MIMOでは複数アンテナと高度な信号処理を利用し、異なる伝搬経路を活用して複数の独立したデータストリームを同時に送ります。
これを、
空間多重
と呼びます。
「空間ストリーム」とは?
MIMOを理解するうえで最も重要な言葉が、
Spatial Stream(空間ストリーム)
です。
空間ストリームとは、同じ周波数・同じ時間を利用しながら、空間的な違いを利用して独立して送信できるデータの流れです。
たとえば2本の空間ストリームを利用できれば、条件がよい場合、
ストリーム1 → データA
ストリーム2 → データB
を同時に送れます。
1本ずつ順番に送るより、一度に多くの情報を運べるため通信速度を高められます。
「2×2 MIMO」とは?
Wi-Fi機器では、
2×2
4×4
などの表記が使われます。
一般的には、
送信系統数 × 受信系統数
を表します。
たとえば、
2×2 MIMO
なら、2つの送信系統と2つの受信系統を持つ構成です。
製品仕様では、
2×2:2
のように3つ目の数字が付く場合があります。
これは一般に、
送信 × 受信 : 最大空間ストリーム数
を表します。
つまり2×2:2なら、最大2空間ストリームを扱う構成です。
4×4なら2×2の必ず2倍速い?
必ずではありません。
ルーター側が4×4でも、スマートフォンが2×2なら、1台のスマートフォンが4空間ストリームすべてを利用できるわけではありません。
通信能力は、
ルーターと端末の共通して利用できる範囲
に制限されます。
たとえば、
ルーター:4×4
スマートフォン:2×2
なら、そのスマートフォンとのSU-MIMO通信は基本的に端末側の能力が上限になります。
一方、ルーター側の追加アンテナ・ストリームは、MU-MIMOなどで複数端末へ通信するときに活用できる場合があります。
「SU-MIMO」とは?
SU-MIMOは、
Single-User MIMO
の略です。
1回の通信で利用可能な複数の空間ストリームを、
1台の端末
へ向けて利用します。
CiscoはSU-MIMOについて、複数アンテナを利用していても、1回の送信では利用可能な空間ストリームを1台のクライアントへ向ける方式と説明しています。
たとえば2×2対応ルーターと2×2対応PCなら、条件が整えば、
PCへ2本の空間ストリーム
を同時に送ることができます。
SU-MIMOを「高速道路」で例えると?
SU-MIMOを、4車線の高速道路に例えてみましょう。
4車線すべてを、
利用者A専用
として使うイメージです。
Aは複数車線を同時に利用できるため、大量の荷物を速く運べます。
しかしその時間は、ほかの利用者B・Cは同じ仕組みで同時に利用していません。
これがSingle Userの考え方です。
「MU-MIMO」とは?
複数の空間ストリームを複数端末へ振り分ける技術
MU-MIMOは、
Multi-User Multiple Input Multiple Output
の略です。
SU-MIMOでは1台へ向けていた複数の空間ストリームを、
複数のクライアントへ分けて同時送信
できるようにした技術です。
Ciscoの解説では、MU-MIMOを、アクセスポイントが同じ周波数を利用しながら異なるクライアントへ並列にデータストリームを送れる仕組みとして説明しています。
MU-MIMOを「高速道路」で例えると?
今度は4車線の高速道路を、
車線1 → 利用者A
車線2 → 利用者B
車線3 → 利用者C
車線4 → 利用者D
のように割り当てます。
4人がそれぞれ別の車線を使って同時に荷物を運べます。
これがMU-MIMOの基本的なイメージです。
つまり、
SU-MIMO=複数車線を1人で利用
MU-MIMO=複数車線を複数人で利用
という違いです。
MIMOとMU-MIMOは別々の技術?
MU-MIMOはMIMOを複数ユーザーへ拡張した技術です。
そのため、
MIMOとMU-MIMOが完全に無関係な別技術
というわけではありません。
概念としては、
MIMO
├ SU-MIMO
└ MU-MIMO
という関係で理解すると分かりやすいでしょう。
MU-MIMOは1台の端末を高速化する技術?
主目的はそこではありません。
「MU」の意味はMulti-Userです。
つまり、
複数の端末を効率よく同時処理する
ことが主な目的です。
1台のパソコンだけで大容量データを転送する場合は、SU-MIMO、チャネル幅、変調方式、電波強度などの影響が大きくなります。
MU-MIMOのメリットは、複数の端末が同時に通信しているときに表れやすくなります。
Wi-Fi 4とMIMOの関係
Wi-Fi 4に相当する、
IEEE 802.11n
は、Wi-FiにMIMOを本格的に導入した重要な規格です。
IEEEの資料では、802.11nが、
- MIMO
- 最大4空間ストリーム
- 40MHzチャネル
などによって、従来のWi-Fiより大幅に通信速度を高めたことが説明されています。
ただし802.11nのMIMOは基本的に、
SU-MIMO
です。
複数ストリームを利用しても、1回の通信では1ユーザーへ向けます。
Wi-Fi 5とMU-MIMOの関係
Wi-Fi 5の、
IEEE 802.11ac
では、MU-MIMOが追加されました。
特に802.11ac Wave 2では、
ダウンリンクMU-MIMO
が実用化されました。
ダウンリンクとは、
アクセスポイント → 端末
方向です。
Ciscoの資料でも、802.11ac Wave 2のMU-MIMOでは、APが同じチャネル上で複数のクライアントへ同時にデータを送信できると説明されています。
Wi-Fi 5ではアップロード時もMU-MIMO?
基本的には違います。
Wi-Fi 5のMU-MIMOはダウンリンク中心です。
つまり、
AP → 複数端末
ではMU-MIMOを利用できますが、
複数端末 → AP
のアップリンクMU-MIMOはWi-Fi 6で加わりました。
Wi-Fi 6ではMU-MIMOがどう進化した?
Wi-Fi 6の、
IEEE 802.11ax
ではMU-MIMOがさらに拡張されます。
代表的には、
- ダウンリンクMU-MIMO
- アップリンクMU-MIMO
の両方向を利用できます。
CiscoのWi-Fi 6技術資料では、802.11axでUL・DL MU-MIMOを利用できる構成が示されています。
つまり複数端末からアクセスポイントへ送信する場合にも、複数の空間ストリームを活用できます。
「アップリンクMU-MIMO」とは?
アップリンクMU-MIMOでは、複数の端末が、
同じ時間・周波数を利用しながら異なる空間ストリーム
を使ってアクセスポイントへ送信します。
たとえば、
PC A → AP
スマートフォンB → AP
PC C → AP
を同時に行うイメージです。
ただし複数端末の送信タイミングを揃える必要があるため、アクセスポイント側のスケジューリングが重要になります。
Wi-Fi 6EでもMU-MIMOは使える?
使えます。
Wi-Fi 6Eは、Wi-Fi 6と同じIEEE 802.11ax技術を6GHz帯へ拡張したものです。
そのため6GHzでも、
- SU-MIMO
- MU-MIMO
- OFDMA
- 1024-QAM
など、Wi-Fi 6の主要機能を利用できます。
Wi-Fi 7でもMU-MIMOは使う?
はい。
Wi-Fi 7のIEEE 802.11beでも、MU-MIMOは引き続き利用されます。
Ciscoの現行Wi-Fi 7アクセスポイント仕様でも、
アップリンク/ダウンリンクMU-MIMO
が802.11beの機能として掲載されています。
Wi-Fi 7ではさらに、
- 320MHz
- 4096-QAM
- MLO
- Multi-RU
などを組み合わせて通信効率を高めています。
Wi-Fi 7は16空間ストリーム?
「Wi-Fi 7規格では最大16空間ストリーム」と説明するのは正確ではありません。
CiscoのWi-Fi 7解説では、Wi-Fi 7の1リンクにおける最大空間ストリーム数は、以前のWi-Fi世代と同じ、
8ストリーム
と説明されています。
製品によって複数の無線部・周波数帯を合計して「16 spatial streams」などと表示される場合がありますが、これは複数ラジオ全体を合計した製品構成であることがあります。
したがって、
「16ストリーム対応製品=1台の端末へ16ストリーム送れる」
とは限りません。
「ビームフォーミング」とMU-MIMOの関係
MU-MIMOでは、複数端末へ異なる空間ストリームを同時に送る必要があります。
そこで重要になるのが、
ビームフォーミング
です。
ビームフォーミングは、複数アンテナから送る信号の位相などを調整し、特定方向の端末へ電波エネルギーを集中させる技術です。
MU-MIMOでは端末Aへ向けた信号が端末Bへ強く干渉しないよう、端末ごとの空間的な違いを利用して複数ストリームを分離します。
CiscoのMU-MIMO解説でも、異なるユーザー方向へビームを形成し、ほかのユーザー方向では信号を抑える「null steering」が説明されています。
ビームフォーミングとMU-MIMOは同じ?
同じではありません。
ビームフォーミングは特定端末方向へ信号を集中させる技術です。
MU-MIMOは複数端末へ複数の空間ストリームを同時に送る技術です。
MU-MIMOの実現にビームフォーミング関連技術が重要な役割を持ちますが、
ビームフォーミング=MU-MIMO
ではありません。
「MIMO」と「OFDMA」の違い
MIMO・MU-MIMOと一緒によく登場するのが、
OFDMA
です。
両者の最大の違いは、
何を分割して複数端末へ割り当てるか
です。
| 技術 | 利用する次元 | 考え方 |
|---|---|---|
| MU-MIMO | 空間 | 複数の空間ストリームを複数端末へ割り当て |
| OFDMA | 周波数 | チャネルをRUへ分けて複数端末へ割り当て |
Ciscoも、MU-MIMOは空間分離、OFDMAは周波数分割を利用するため、両者は補完関係にあり、現代のWi-Fiで組み合わせて利用できると説明しています。
OFDMAがあればMU-MIMOは不要?
不要にはなりません。
両者は異なる方法で無線資源を効率化します。
一般的には、
OFDMA=多数の小さな通信を効率よく処理
MU-MIMO=複数端末へ複数空間ストリームで大きな通信を並列化
という違いがあります。
実際のWi-Fi 6・7では通信状況に応じて両方を活用します。
MU-MIMOは端末同士が離れているほうが有利?
MU-MIMOでは複数端末を空間的に分離して扱う必要があります。
そのため、アクセスポイントから見て複数端末の無線チャネル特性が十分に異なることが重要です。
2台の端末がほぼ同じ方向・同じ場所にある場合などは、理想的に分離できない場合があります。
つまり、
MU-MIMO対応端末が複数ある=必ず同時送信される
わけではありません。
MU-MIMOは常に有効になる?
いいえ。
アクセスポイントは、
- 対応端末数
- 端末の位置
- チャネル状態
- データ量
- 端末能力
- 信号品質
などを基に送信方法を決めます。
場合によってはMU-MIMOではなく、SU-MIMOで順番に送信したほうが効率的なこともあります。
MU-MIMO対応ルーターなら古い端末もMU-MIMOになる?
なりません。
MU-MIMOを利用するには、端末側の対応も必要です。
たとえばWi-Fi 5初期世代の端末など、MU-MIMO非対応クライアントは通常の方式で通信します。
ルーターを新しくしただけで、端末側の無線機能が増えるわけではありません。
「8×8ルーター」と「2×2スマホ」の関係
ルーターが8ストリーム対応でも、多くのスマートフォンは2×2構成です。
この場合、1台のスマートフォンが8本すべてのストリームを利用するわけではありません。
アクセスポイントは余った空間能力を、
- 別の端末
- MU-MIMO
- 無線品質改善
などに利用できる場合があります。
したがって、
ルーターのストリーム数=1台の端末が利用できるストリーム数
ではありません。
「アンテナ本数」と「空間ストリーム数」は同じ?
必ず同じではありません。
物理的なアンテナ数が多くても、同時に伝送できる独立した空間ストリーム数は別の仕様です。
たとえばアンテナを、
- ビームフォーミング
- 受信ダイバーシティ
- 信号品質改善
などへ利用する場合もあります。
製品を比較するときは、単にアンテナ本数を見るだけでなく、
「最大空間ストリーム数」
を確認することが重要です。
「2×2」「4×4」はWi-Fi速度とどう関係する?
ほかの条件が同じなら、利用できる空間ストリームが増えるほど理論上のデータレートを高められます。
たとえば、同じ、
- チャネル幅
- Wi-Fi規格
- 変調方式
- ガードインターバル
なら、1ストリームより2ストリームのほうが多くのデータを同時に運べます。
ただし実効速度は、
- 端末のストリーム数
- 距離
- 電波干渉
- Wi-Fiのオーバーヘッド
- 回線速度
などにも左右されます。
MU-MIMOならWi-Fiの「順番待ち」がなくなる?
完全になくなるわけではありません。
Wi-Fiは共有する無線媒体です。
MU-MIMOを利用できる場合には複数端末を同時処理できますが、
- すべての端末がMU-MIMO対応とは限らない
- 利用できる空間ストリーム数には限界がある
- ほかのアクセスポイントとの競合もある
ため、通信時間の競合そのものがなくなるわけではありません。
MU-MIMOは、
限られた通信時間を効率よく使うための技術
と考えるのが適切です。
MU-MIMOは家庭でも効果がある?
現在の家庭には、
- スマートフォン
- ノートPC
- テレビ
- ゲーム機
- タブレット
- NAS
など複数の高速Wi-Fi端末が存在します。
家族が同時に、
- 動画視聴
- ダウンロード
- クラウド利用
- ファイル転送
を行う場合、MU-MIMOを活用できればネットワーク全体の通信効率を高められる可能性があります。
ただし端末が1台だけなら、MU-MIMOよりSU-MIMO側の能力が重要になります。
オンラインゲームではMU-MIMOが重要?
ゲーム端末以外にも家族が大量通信を行っている場合、ネットワーク全体の効率改善という意味でメリットがあります。
ただしオンラインゲームの快適性は、
- 遅延
- ジッター
- パケットロス
- 電波強度
- インターネット回線
にも大きく左右されます。
「MU-MIMO対応=必ずゲームのpingが下がる」
という意味ではありません。
動画視聴ではMU-MIMOが有効?
複数人が別々の端末で動画を同時視聴している場合には、MU-MIMOのメリットを活かしやすくなります。
アクセスポイントから複数端末へ比較的大きなデータを同時に送る場面だからです。
一方、1人だけで動画を見る場合は、SU-MIMOや端末自身のリンク速度が重要になります。
「MIMO・MU-MIMO」で迷ったときの3秒判定
| こんな場合 | 答え |
|---|---|
| Multiple Input Multiple Output | MIMO |
| 1ユーザーへ複数ストリーム | SU-MIMO |
| 複数ユーザーへ複数ストリーム | MU-MIMO |
| 空間多重 | MIMO |
| Wi-Fi 4で本格導入 | MIMO |
| Wi-Fi 5で追加 | ダウンリンクMU-MIMO |
| Wi-Fi 6で拡張 | アップリンクMU-MIMO |
| 周波数方向の多ユーザー化 | OFDMA |
| 空間方向の多ユーザー化 | MU-MIMO |
最も簡単な覚え方は、
MIMO=「複数の空間ストリームを使う」
MU-MIMO=「そのストリームを複数ユーザーへ振り分ける」
です。
「MIMO」を使った例文
- このノートパソコンは2×2 MIMOに対応している。
- MIMOによって複数の空間ストリームを利用する。
- Wi-Fi 4ではMIMOが重要な高速化技術となった。
- MIMOではマルチパスを通信に活用できる。
- 端末のMIMO構成を確認する。
「MU-MIMO」を使った例文
- ルーターがMU-MIMOに対応している。
- MU-MIMOで複数の端末へ同時にデータを送る。
- Wi-Fi 5ではダウンリンクMU-MIMOが利用された。
- Wi-Fi 6ではアップリンクMU-MIMOにも対応する。
- MU-MIMOとOFDMAを組み合わせて無線資源を効率化する。
具体例で比較:1台のPCへ大容量ファイルを送る
Wi-Fiルーターと1台のPCだけが通信しており、NASから大容量ファイルをダウンロードしているとします。
この場合、複数ユーザーへストリームを分散する必要はありません。
ルーターとPCの双方が2×2なら、
2本の空間ストリームをPCへ利用するSU-MIMO
が有効です。
この場面では、MU-MIMOのメリットは大きくありません。
具体例で比較:3台の端末が同時に動画を見る
今度は家族3人が、
- テレビで4K動画
- タブレットで動画
- PCで動画配信
を同時利用しているとします。
ルーターと各端末が対応し、無線環境が適していれば、MU-MIMOによって複数の空間ストリームを複数端末へ割り当て、同時に送信できます。
このような、
「複数台が比較的大きなデータを同時に受信する環境」
でMU-MIMOのメリットが大きくなります。
よくある間違い1:「MIMOとMU-MIMOは完全に別物」と思う
MU-MIMOはMIMO技術を複数ユーザー通信へ拡張したものです。
MIMOという大きな枠組みの中にSU-MIMO・MU-MIMOがあると考えると分かりやすいでしょう。
よくある間違い2:「MIMOなら必ず複数端末へ同時通信できる」と思う
通常のSU-MIMOでは、複数の空間ストリームを1台の端末へ向けます。
複数端末への同時通信にはMU-MIMOが必要です。
よくある間違い3:「4×4ルーターなら2×2スマホも4ストリームで通信できる」と思う
端末側が2ストリームまでなら、その端末1台が4ストリームを利用することはできません。
通信能力は双方の対応状況で決まります。
よくある間違い4:「アンテナが4本あれば必ず4ストリーム」と思う
物理アンテナ数と実際に扱える空間ストリーム数は必ずしも同じではありません。
製品仕様ではストリーム数を別途確認してください。
よくある間違い5:「MU-MIMOはWi-Fi 6で初登場した」と思う
ダウンリンクMU-MIMOはWi-Fi 5のIEEE 802.11ac Wave 2ですでに実用化されています。
Wi-Fi 6ではアップリンクにも拡張されました。
よくある間違い6:「MU-MIMOとOFDMAは同じ」と思う
MU-MIMOは空間方向、OFDMAは周波数方向のマルチユーザー化です。
両者は補完関係にあり、同じWi-Fi 6・7環境で活用できます。
よくある間違い7:「Wi-Fi 7なら16ストリームを1台へ送れる」と思う
Wi-Fi 7の1リンクで規格上利用する最大空間ストリーム数は8です。
製品資料に16ストリームなどと記載されている場合、複数の無線部・周波数帯を合計した表現である可能性があります。
「MIMO」と「MU-MIMO」に関するよくある質問
Q1. MIMOとMU-MIMOの一番簡単な違いは?
MIMOは複数の送受信アンテナ・空間ストリームを使う技術全般で、MU-MIMOはそのストリームを複数ユーザーへ同時に割り当てる方式です。
Q2. SU-MIMOとは何ですか?
Single-User MIMOの略で、複数の空間ストリームを1台の端末との通信へ利用します。
Q3. 2×2 MIMOとは何ですか?
一般に2つの送信系統と2つの受信系統を持つMIMO構成を示します。
最大空間ストリーム数は製品仕様を確認してください。
Q4. 4×4ルーターなら4×4端末が必要ですか?
必須ではありません。
2×2端末も接続できます。
ただし1台の端末が利用できる空間ストリーム数は、その端末自身の能力が上限になります。
Q5. MU-MIMOはWi-Fi 5でも使えますか?
はい。
Wi-Fi 5ではダウンリンクMU-MIMOが利用できます。
Q6. Wi-Fi 6では何が変わりましたか?
ダウンリンクMU-MIMOに加えてアップリンクMU-MIMOも利用できるようになり、OFDMAと組み合わせたマルチユーザー通信も可能になりました。
Q7. Wi-Fi 7でもMU-MIMOは使いますか?
はい。
Wi-Fi 7の802.11beでもUL・DL MU-MIMOが利用されます。
MLO、320MHz、Multi-RUなど新しい機能と組み合わせて使われます。
Q8. MU-MIMOとOFDMAはどちらが重要ですか?
役割が異なるため、単純に優劣は付けられません。
MU-MIMOは空間、OFDMAは周波数を分けて複数端末を処理します。
Q9. MU-MIMO対応ルーターなら通信速度は必ず速くなりますか?
必ずではありません。
複数の対応端末が同時通信している場合に、ネットワーク全体の効率改善へつながりやすい機能です。
Q10. ルーター選びではMIMOの数字を重視すべきですか?
確認すべき要素の一つですが、それだけで性能は決まりません。
Wi-Fi世代、チャネル幅、対応周波数帯、端末側のストリーム数、WAN・LANポート速度なども合わせて確認することが重要です。
まとめ
「MIMO」と「MU-MIMO」は、複数のアンテナと空間ストリームを利用するという共通点がありますが、通信相手の扱いが異なります。
| MIMO・SU-MIMO | MU-MIMO |
|---|---|
| 複数アンテナを利用 | 複数アンテナを利用 |
| 複数の空間ストリーム | 複数の空間ストリーム |
| 1台へ複数ストリーム | 複数台へストリームを分配 |
| 1台との速度向上に有効 | 複数端末の同時通信効率向上に有効 |
| Wi-Fi 4から本格普及 | Wi-Fi 5でDL、Wi-Fi 6でULにも拡張 |
最も簡単な覚え方は、
MIMO=「複数の空間ストリームを利用する」
SU-MIMO=「そのストリームを1台で使う」
MU-MIMO=「そのストリームを複数台で使う」
です。
Wi-Fiの歴史で整理すると、
Wi-Fi 4(802.11n)=MIMO・SU-MIMOを本格導入
Wi-Fi 5(802.11ac)=ダウンリンクMU-MIMOを追加
Wi-Fi 6(802.11ax)=アップリンクMU-MIMO+OFDMA
Wi-Fi 6E=Wi-Fi 6のMIMO技術を6GHzでも利用
Wi-Fi 7(802.11be)=MU-MIMOを継続し、MLO・320MHz・Multi-RUなどを追加
となります。
また、ルーターの、
「4×4」「8ストリーム」
といった数字だけで、1台のスマートフォンの通信速度を判断することはできません。
スマートフォンやノートPC側が2×2なら、1台で利用できるストリーム数は端末側の能力によって制限されます。
ルーター側に多くの空間ストリームがあるメリットは、
複数の端末をMU-MIMOで効率よく処理できる余地が増える
ことにもあります。
そしてOFDMAとの違いも重要です。
MU-MIMO=空間を分ける
OFDMA=周波数を分ける
という別々の方法で複数端末を効率化します。
現在のWi-Fi 6・6E・7では、このような複数の技術を組み合わせることで、単純な最高速度だけでなく、
「多数の端末が同時に使っても快適なWi-Fi」
を実現する方向へ進化しています。
参考リンク・出典
-
IEEE Technology Navigator「IEEE 802.11n Standard」
― IEEE 802.11n(Wi-Fi 4)がMIMOアンテナ技術を導入し、最大4つの独立した空間ストリームを利用できる仕組みを解説 -
Cisco「What Is MU-MIMO?」
― SU-MIMOでは1台へ利用可能な空間ストリームを向けるのに対し、MU-MIMOでは複数端末へ並列にストリームを送る違いを解説。またOFDMAとの違いも説明 -
Cisco「Understanding Multi-User MIMO」
― IEEE 802.11nのSU-MIMOと、IEEE 802.11ac Wave 2で導入されたダウンリンクMU-MIMO、ビームフォーミング・null steeringの関係を解説 -
Cisco Meraki「Wi-Fi 6(802.11ax)テクニカルガイド」
― Wi-Fi 6で利用されるSU-MIMO、UL/DL MU-MIMO、OFDMA、空間ストリームなどの技術仕様を整理 -
Cisco「Wi-Fi 7 and the Growing Future of Wireless Design Guide」
― Wi-Fi 7でもMU-MIMO・空間ストリームが重要であること、MLO・4096-QAM・320MHzなどとの関係を解説
※本記事では理解しやすさを優先し、「MIMO」という言葉をSU-MIMOを含む広い意味で使用しています。厳密にはMIMOは複数入力・複数出力を用いる技術全般であり、その利用形態としてSU-MIMOやMU-MIMOがあります。
※「2×2」「4×4」等の表記方法はメーカー資料によって多少異なる場合があります。物理アンテナ数、RFチェーン数、送受信系統数、最大空間ストリーム数が必ず同じとは限らないため、製品仕様の「spatial streams」も確認してください。
※MU-MIMO対応機器でも、すべての通信で常に複数端末への同時送信が行われるわけではありません。端末能力、チャネル状態、端末の位置、トラフィック量などによってSU-MIMOや別の方式が利用されます。
※Wi-Fi 5のMU-MIMOは主にダウンリンクです。Wi-Fi 6のIEEE 802.11axでアップリンクMU-MIMOが加わり、OFDMAと組み合わせたマルチユーザー通信が強化されました。
※Wi-Fi 7の製品資料では、複数ラジオを合計した空間ストリーム数が記載される場合があります。規格上の1リンクの最大空間ストリーム数と、アクセスポイント製品全体の合計値を混同しないよう注意してください。
