経済ニュースでは、
「名目GDPが過去最高になった」
「実質GDPは前期比で増加した」
「実質GDP成長率はプラスだった」
といった表現をよく目にします。
どちらも「GDP」なのに、なぜ「名目」と「実質」という2種類があるのでしょうか。
また、
「名目GDPと実質GDPは何が違う?」
「名目GDPが増えれば経済は成長したと考えてよい?」
「物価が上がるとGDPも増える?」
「経済成長率ではなぜ実質GDPを見るの?」
「GDPデフレーターとは何?」
と疑問に感じることもあるでしょう。
結論からいうと、「名目GDP」はその時点の市場価格で計算したGDPです。一方、「実質GDP」は物価変動の影響を取り除き、生産されたモノやサービスの実質的な増減を捉えたGDPです。
簡単に覚えるなら、
名目GDP=「金額として経済がどれだけ大きいか」
実質GDP=「物価の影響を除いて、実際の生産活動がどれだけ増えたか」
です。
たとえば、ある国で生産した商品の量が全く増えていなくても、価格が10%上昇すれば、その商品から計算される名目上の金額は増えます。
しかし、実際に生産した量が増えていなければ、
「経済活動そのものが10%拡大した」
とはいえません。
そこで、物価変動の影響を取り除いて経済成長を見るために使われるのが、
実質GDP
です。
この記事では、「名目GDP」と「実質GDP」の違いから、GDPデフレーター、経済成長率、CPI、1人当たりGDP、GNIとの違いまで詳しく解説します。
- 「名目GDP」と「実質GDP」の違い【結論】
- そもそも「GDP」とは?
- 「付加価値」とは?
- 「国内」のGDPとは?
- 「名目GDP」とは?
- 名目GDPは物価上昇の影響を受ける
- 「実質GDP」とは?
- 名目GDPと実質GDPの最大の違いは「物価」
- 名目GDPが増えているのに実質GDPが減ることはある?
- 経済成長率ではなぜ「実質GDP」が重視される?
- では名目GDPは重要ではない?
- 「GDPデフレーター」とは?
- 名目GDP・実質GDP・GDPデフレーターの関係
- GDPデフレーターとCPIは同じ?
- 輸入物価が上がるとGDPデフレーターはどうなる?
- 実質GDPは「ある基準年の価格」で計算する?
- 「連鎖方式」とは?
- 実質GDPの金額は普通の「円」と同じ意味?
- 「名目GDP成長率」と「実質GDP成長率」の違い
- 名目GDPが過去最高なら、経済も過去最高に豊か?
- 「GDPが増えた」だけでは名目か実質か分からない
- 「1人当たりGDP」とは?
- 1人当たりGDPにも「名目」と「実質」がある
- 外国とGDPを比較するときの注意点
- 「GDP」と「GNI」の違い
- 「名目GDP・実質GDP」で迷ったときの3秒判定
- 「名目GDP」を使った例文
- 「実質GDP」を使った例文
- よくある間違い1:「名目GDPが増えれば実際の生産量も増えた」と思う
- よくある間違い2:「実質GDPのほうが常に重要」と思う
- よくある間違い3:「実質GDPはインフレ率を名目GDPから単純に引けば出る」と思う
- よくある間違い4:「GDPデフレーターとCPIは同じ」と思う
- よくある間違い5:「名目GDP世界順位=国民の豊かさ順位」と思う
- よくある間違い6:「ドル建てGDPが減ったら国内経済も縮小した」と思う
- よくある間違い7:「実質GDPは固定された昔の価格だけで計算している」と思う
- 「名目GDP」と「実質GDP」に関するよくある質問
- まとめ
- 参考資料・出典
「名目GDP」と「実質GDP」の違い【結論】
| 比較項目 | 名目GDP | 実質GDP |
|---|---|---|
| 基本的な意味 | その時点の市場価格で計算したGDP | 物価変動の影響を除いたGDP |
| 物価上昇の影響 | 受ける | 取り除く |
| 分かること | 経済の金額ベースの規模 | 生産活動の実質的な増減 |
| 経済成長を見る用途 | 物価の影響が混ざる | 実質成長率としてよく使う |
| インフレ時 | 生産量が同じでも増えることがある | 価格上昇だけでは増えない |
| 関連指標 | 名目GDP成長率 | 実質GDP成長率 |
| 両者を結ぶ指標 | GDPデフレーター | |
3秒で判断するなら、
「現在の価格で見た金額?」 → 名目GDP
「物価を除いた経済成長?」 → 実質GDP
です。
そもそも「GDP」とは?
国内で生み出された「付加価値」の合計
GDPは、
Gross Domestic Product
の略で、日本語では、
国内総生産
と呼ばれます。
内閣府はGDPについて、
国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額
と説明しています。
ここで重要なのが、
売上高の合計ではなく「付加価値」の合計
だという点です。
「付加価値」とは?
簡単な例で考えてみましょう。
パン屋が小麦粉などを100円で仕入れ、それを使ってパンを200円で販売したとします。
この場合、単純化するとパン屋が新しく生み出した付加価値は、
200円 − 100円 = 100円
です。
GDPでは、経済の各段階で生み出された付加価値を合計します。
途中で使われる原材料まで何度も足すと二重計上になってしまうためです。
「国内」のGDPとは?
GDPの「D」は、
Domestic=国内
です。
そのためGDPは、
誰の会社かではなく、どこで生産されたか
を重視します。
たとえば、外国企業が日本国内の工場で生み出した付加価値は、日本のGDPに含まれます。
一方、日本企業が海外の工場で生み出した付加価値は、そのまま日本のGDPに含まれるわけではありません。
この「国内」という考え方が、GNIとの重要な違いになります。
「名目GDP」とは?
実際に市場で取引された価格で計算するGDP
名目GDPは、
その時点で実際に市場で取引されている価格
を使って計算したGDPです。
たとえば、ある国で1年間にリンゴだけを100個生産し、1個100円だったとします。
単純化するとGDPは、
100個 × 100円 = 1万円
です。
翌年、生産量は100個のままですが、価格が1個120円へ上昇したとします。
すると名目GDPは、
100個 × 120円 = 1万2,000円
になります。
名目GDPは、
1万円 → 1万2,000円
へ20%増えています。
しかし、生産量は100個のままです。
つまり、
実際に作った量は増えていないのに、価格が上がっただけで名目GDPは増える
ことがあります。
名目GDPは物価上昇の影響を受ける
名目GDPを理解するうえで最も重要なのが、
物価変動をそのまま含む
という点です。
名目GDPが増えた理由には、
- 生産量が増えた
- サービス提供量が増えた
- 商品の価格が上がった
- サービス価格が上がった
- 生産量と価格の両方が増えた
などが考えられます。
つまり、名目GDPだけを見ても、
「実際の経済活動が増えたのか、単に物価が上がったのか」
を区別できません。
「実質GDP」とは?
物価変動を取り除いて経済活動の量を見るGDP
そこで使われるのが、
実質GDP
です。
実質GDPは、物価の上昇・下落による影響を取り除き、
実際に生産されたモノやサービスの量の変化
を把握しやすくしたGDPです。
先ほどのリンゴの例で、
1年目:
100個 × 100円 = 1万円
2年目:
100個 × 120円 = 名目1万2,000円
だったとします。
価格変化を取り除けば、生産量は、
100個 → 100個
で変わっていません。
したがって、単純化した実質GDPの成長率は、
0%
です。
名目GDPは20%増えていますが、実質GDPは増えていません。
名目GDPと実質GDPの最大の違いは「物価」
両者の違いを一言で表すなら、
物価変動を含むか、取り除くか
です。
| 変化 | 名目GDP | 実質GDP |
|---|---|---|
| 生産量だけ増える | 増える | 増える |
| 価格だけ上がる | 増える | 原則として増えない |
| 生産量も価格も増える | 大きく増えやすい | 生産量増加分を反映 |
| 生産量減少・価格上昇 | 増える場合もある | 減少する可能性 |
名目GDPが増えているのに実質GDPが減ることはある?
あります。
たとえば、前年に、
100個 × 100円 = 1万円
の商品を生産していたとします。
翌年は生産量が98個へ減った一方、価格が110円へ上昇したとします。
名目GDPは、
98個 × 110円 = 1万780円
です。
金額では、
1万円 → 1万780円
へ7.8%増えています。
しかし生産量は、
100個 → 98個
へ2%減っています。
物価の影響を除けば、実質的な生産活動は縮小しています。
つまり、
名目GDPプラス・実質GDPマイナス
という状況は十分に起こり得ます。
経済成長率ではなぜ「実質GDP」が重視される?
経済が実際にどれだけ成長したかを知りたいからです。
もし物価が10%上昇しただけでGDPが10%増えたとしても、生産量が増えていなければ、
「経済活動が10%拡大した」
とは評価しにくいでしょう。
そのため、
経済成長率
を議論するときには、物価変動を取り除いた、
実質GDP成長率
が特に重視されます。
統計局が公表する国際統計でも、GDPの実質成長率について、名目GDPから物価変動による影響を除いた実質GDPの増減率として説明されています。
では名目GDPは重要ではない?
いいえ。名目GDPも非常に重要です。
用途が違います。
名目GDPは、
現在の価格で見た経済全体の金額規模
を示します。
そのため、
- 経済規模そのものを見る
- 政府債務のGDP比を計算する
- 税収や企業売上など名目金額との関係を見る
- 国の経済規模を金額で比較する
といった場面では名目GDPが重要です。
したがって、
名目GDPと実質GDPは「どちらが正しいか」ではなく、目的に応じて使い分ける指標
です。
「GDPデフレーター」とは?
名目GDPと実質GDPの差から分かる物価指標
名目GDPと実質GDPを結び付ける重要な指標が、
GDPデフレーター
です。
内閣府の国民経済計算では、GDPデフレーターは基本的に、
名目GDP ÷ 実質GDP
という関係から事後的に算出されます。
指数として表す場合は、単純化すると、
GDPデフレーター = 名目GDP ÷ 実質GDP × 100
というイメージです。
名目GDPが実質GDPより速く増えていれば、GDP全体で見た価格上昇が起こっている可能性があります。
名目GDP・実質GDP・GDPデフレーターの関係
考え方を単純化すると、
名目GDP ≒ 実質GDP × 物価
です。
したがって名目GDPの増加は、大きく分けて、
①実際の生産量が増えた
②価格が上がった
③両方が起きた
という3つの要因から考えることができます。
GDPデフレーターは、そのうち価格面の動きを捉えるための指標です。
GDPデフレーターとCPIは同じ?
違います。
CPIは、
消費者物価指数(Consumer Price Index)
です。
家計が購入する財・サービスの価格変化を測ります。
一方、GDPデフレーターは、GDPに含まれる国内で生産された財・サービス全体の価格変化を反映します。
| GDPデフレーター | CPI |
|---|---|
| GDPに含まれる財・サービスを対象 | 家計が消費する財・サービスが中心 |
| 設備投資・政府サービス・輸出なども関係 | 消費者の生活に近い物価 |
| 輸入はGDPから控除される | 輸入品でも家計が購入すれば対象になり得る |
| GDP統計から算出 | 総務省統計局が作成 |
そのため、
CPIが3%上昇したからGDPデフレーターも必ず3%上昇する
わけではありません。
輸入物価が上がるとGDPデフレーターはどうなる?
GDPデフレーターとCPIの違いを理解するうえで重要なポイントです。
GDPは、支出面から見ると単純化して、
GDP = 消費 + 投資 + 政府支出 + 輸出 − 輸入
と表せます。
輸入は国内で生産されたものではないため、GDPから控除されます。
そのため、輸入品価格の急上昇はCPIを押し上げやすい一方、GDPデフレーターにはCPIと異なる形で影響します。
「物価指数」と一口にいっても、それぞれ対象が違うのです。
実質GDPは「ある基準年の価格」で計算する?
教科書では、
「実質GDPは基準年の価格を使って計算する」
と説明されることがあります。
基本的な考え方を理解するには分かりやすい説明です。
ただし、現在の日本のGDP統計では、より正確に経済構造の変化を反映するため、
連鎖方式
が採用されています。
現在公表される実質GDPの実額は、2020暦年を参照年とする連鎖価格で表示されています。
したがって、実務的には、
「ずっと同じ年の価格を固定して掛け続けている」
という単純な仕組みではありません。
「連鎖方式」とは?
経済では、時間の経過とともに商品の種類や価格構造が大きく変わります。
たとえば20年前には、現在ほど、
- スマートフォン
- クラウドサービス
- 動画配信サービス
- AI関連サービス
が普及していませんでした。
非常に古い年の価格構造を固定したまま現在の経済を計算すると、経済実態を正確に捉えにくくなります。
そこで日本の国民経済計算では、前年と当年の価格構造などを使いながら成長率をつないでいく、
連鎖方式
が使われています。
その結果、経済構造の変化をより適切に反映できます。
実質GDPの金額は普通の「円」と同じ意味?
注意が必要です。
名目GDPは、その時点の実際の価格による金額なので、
現在価格での「○兆円」
という意味が比較的分かりやすい指標です。
一方、実質GDPの「○兆円」は、物価変動を調整した連鎖価格表示です。
したがって、
「実際にその年に○兆円のお金が支払われた」
という意味ではありません。
実質GDPは、特に時系列で経済活動の増減を見るための指標と考えると分かりやすいでしょう。
「名目GDP成長率」と「実質GDP成長率」の違い
| 名目GDP成長率 | 実質GDP成長率 |
|---|---|
| 現在価格ベースのGDPの増減 | 物価変動を除いたGDPの増減 |
| 価格上昇の影響を含む | 生産活動の量的変化を捉えやすい |
| インフレ時には高くなりやすい | 一般的な経済成長率として重視 |
たとえば、
名目GDP +5%
GDPデフレーター +3%程度
であれば、単純化すると実質的な成長は2%前後というイメージになります。
ただし実際の連鎖方式による計算は、単純な引き算だけではありません。
名目GDPが過去最高なら、経済も過去最高に豊か?
必ずしもそうとはいえません。
名目GDPは物価上昇の影響を受けるためです。
たとえば長期間にわたり物価が上昇すれば、実際の生産量が大きく増えていなくても名目GDPは過去最高になる可能性があります。
経済の実質的な成長を見るには、
実質GDP
も併せて確認する必要があります。
さらに国民一人ひとりの豊かさを見るなら、
- 1人当たりGDP
- 実質賃金
- 可処分所得
- 労働時間
- 物価
なども確認する必要があります。
「GDPが増えた」だけでは名目か実質か分からない
ニュースを読むときに注意したいポイントです。
「GDPが3%増えた」
とだけ書かれていた場合、
名目GDPなのか実質GDPなのか
を確認しましょう。
物価上昇率が高い時期には、名目GDPと実質GDPの伸び率が大きく異なることがあります。
特に経済成長を論じるニュースでは、実質GDPが使われることが多くあります。
「1人当たりGDP」とは?
GDPを人口で割ったものが、
1人当たりGDP
です。
国全体のGDPが増えていても、人口が大きく増えていれば、1人当たりで見た経済規模はそれほど増えていない場合があります。
反対に、人口が減少している国では、GDP全体がほぼ横ばいでも1人当たりGDPが増える場合があります。
したがって、
GDP総額=国全体の経済規模
1人当たりGDP=人口1人当たりで見た経済規模
と分けて考える必要があります。
1人当たりGDPにも「名目」と「実質」がある
1人当たりGDPにも、
名目1人当たりGDP
と、
実質1人当たりGDP
があります。
名目値は現在の価格で計算したGDPを人口で割ったものです。
実質値は物価変動を除いたGDPを人口で割ります。
生活水準の長期的な変化を分析する場合には、実質1人当たりGDPが重要になることがあります。
外国とGDPを比較するときの注意点
各国の名目GDPを米ドルへ換算してランキングにすることがあります。
この場合、
為替レート
の影響を強く受けます。
たとえば国内で生産された量が変わっていなくても、自国通貨がドルに対して大きく下落すれば、ドル換算の名目GDPは小さく見えることがあります。
したがって、国際比較では目的によって、
- 名目GDP
- 実質GDP
- 1人当たりGDP
- 購買力平価(PPP)ベースGDP
を使い分けることが重要です。
「GDP」と「GNI」の違い
GDPとよく似た指標に、
GNI(Gross National Income=国民総所得)
があります。
GDPは、
国内で生み出された付加価値
を重視します。
GNIは、
その国の居住者が国内外から得た所得
という観点を重視します。
単純化すると、
GNI = GDP + 海外から受け取った所得 − 海外へ支払った所得
という関係です。
海外投資や海外事業から多くの所得を得る国では、GDPとGNIの違いが大きくなることがあります。
「名目GDP・実質GDP」で迷ったときの3秒判定
| 知りたいこと | 見る指標 |
|---|---|
| 現在価格で国の経済規模はいくらか | 名目GDP |
| 物価を除いて経済が何%成長したか | 実質GDP |
| 国内全体の物価変化 | GDPデフレーター |
| 消費者が感じる物価変化 | CPI |
| 人口1人当たりの経済規模 | 1人当たりGDP |
| 国内外から国民が得た所得 | GNI |
「名目GDP」を使った例文
- 物価上昇を背景に名目GDPが増加した。
- 国の経済規模を金額で比較するため名目GDPを確認する。
- 名目GDPは実際の市場価格で評価される。
- インフレによって名目GDPの伸び率が高まった。
- ドル換算の名目GDPは為替相場の影響を受ける。
「実質GDP」を使った例文
- 実質GDPは前期比で増加した。
- 物価変動を除いた実質GDPで経済成長を確認する。
- 名目GDPは増えたが、実質GDPは減少した。
- 実質GDP成長率が景気判断の重要な材料となる。
- 人口減少下では実質GDPと1人当たりGDPの両方を見る必要がある。
よくある間違い1:「名目GDPが増えれば実際の生産量も増えた」と思う
名目GDPは物価上昇でも増えます。
実際の生産活動がどれだけ増えたかを見るには、実質GDPを確認する必要があります。
よくある間違い2:「実質GDPのほうが常に重要」と思う
用途によります。
経済成長を見るには実質GDPが重要ですが、現在価格での経済規模や政府債務との比較などでは名目GDPも重要です。
よくある間違い3:「実質GDPはインフレ率を名目GDPから単純に引けば出る」と思う
変化率を大まかに理解する場合には、
名目成長率 − 物価上昇率 ≒ 実質成長率
という近似が役立つことがあります。
しかし日本の実際の実質GDPは、多数の品目を実質化したうえで連鎖方式により計算されます。
よくある間違い4:「GDPデフレーターとCPIは同じ」と思う
CPIは家計消費が中心です。
GDPデフレーターは国内で生産された最終的な財・サービスをより幅広く対象とするため、両者の動きは異なることがあります。
よくある間違い5:「名目GDP世界順位=国民の豊かさ順位」と思う
名目GDP総額は国全体の経済規模を表します。
人口規模が大きい国ほどGDPも大きくなりやすいため、個人の豊かさを見るには1人当たりGDPなども必要です。
よくある間違い6:「ドル建てGDPが減ったら国内経済も縮小した」と思う
ドル換算の名目GDPは為替相場の影響を受けます。
円ベースのGDPが増えていても、円安によってドル換算値が減少する場合があります。
よくある間違い7:「実質GDPは固定された昔の価格だけで計算している」と思う
現在の日本の実質GDPは連鎖方式を採用しています。
経済構造の変化を反映するため、単純に一つの古い基準年の価格を全期間へ固定しているわけではありません。
「名目GDP」と「実質GDP」に関するよくある質問
Q1. 「名目GDP」と「実質GDP」の一番簡単な違いは?
名目GDPは「現在の価格で見た経済規模」、実質GDPは「物価の変化を除いて見た経済規模」です。
Q2. 経済成長率はどちらを見るのですか?
通常、経済活動そのものの増減を分析する際には、物価変動を除いた実質GDP成長率が重視されます。
Q3. 名目GDPが増え、実質GDPが減ることはありますか?
あります。
生産量が減少していても、それ以上に価格が上昇すれば名目GDPは増える可能性があります。
Q4. デフレになると名目GDPはどうなりますか?
生産量が増えていても、価格下落が大きければ名目GDPの伸びが実質GDPより小さくなったり、名目GDPが減少したりすることがあります。
Q5. GDPデフレーターとは何ですか?
名目GDPと実質GDPの関係から算出される、GDP全体の価格変動を表す指標です。
Q6. GDPデフレーターと消費者物価指数はどちらを見ればよいですか?
目的によります。
家計が購入する商品・サービスの物価を見るならCPI、GDP全体に含まれる財・サービスの価格変化を見るならGDPデフレーターが適しています。
Q7. 実質GDPが増えれば国民生活も必ず豊かになりますか?
必ずとは限りません。
GDPが増えても人口、所得分配、物価、賃金、労働時間などによって個人の生活実感は異なります。
Q8. 人口が減っている国ではGDPをどう見ればよいですか?
GDP総額に加えて、実質1人当たりGDPを見ると、人口変動を考慮した経済活動を把握しやすくなります。
Q9. 日本の実質GDPは何年の価格を使っていますか?
現在の公式統計では連鎖方式が採用され、実質GDPの実額は2020暦年を参照年とする連鎖価格で表示されています。
単純に2020年の価格をすべての年へ固定して計算しているという意味ではありません。
Q10. ニュースで「GDP過去最高」とあったら何を確認すべきですか?
まず、
- 名目GDPか実質GDPか
- 実額なのか成長率なのか
- 四半期か年度か
- 前期比か前年比か
- 名目の場合は物価上昇の影響がどの程度あるか
を確認すると内容を正確に理解できます。
まとめ
「名目GDP」と「実質GDP」は、同じGDPでも物価の扱いが異なります。
| 名目GDP | 実質GDP |
|---|---|
| 現在の市場価格で計算 | 物価変動の影響を除いて計算 |
| 金額ベースの経済規模を表す | 実際の生産活動の増減を表しやすい |
| 物価上昇でも増える | 価格上昇だけでは増えない |
| 債務比率などにも重要 | 経済成長率を見るときに重要 |
最も簡単な覚え方は、
名目GDP=「値段込みのGDP」
実質GDP=「値段の変化を取り除いたGDP」
です。
たとえば、生産量が同じでも価格が10%上昇すれば、名目GDPは増えます。
しかし物価変動を除けば、実質的な生産量は増えていないため、実質GDPはほとんど変わりません。
逆に、
生産量が2%減少
していても、
価格が10%上昇
すれば、名目GDPが増えることもあります。
そのため、
「GDPが増えた」という情報だけでは、経済が実質的に成長したか判断できません。
ニュースを見るときには、
名目か実質か
を必ず確認することが重要です。
さらに関連語まで整理すると、
GDP=国内で生み出された付加価値の合計
名目GDP=現在の市場価格で計算したGDP
実質GDP=物価変動の影響を取り除いたGDP
GDPデフレーター=名目GDPと実質GDPの関係からみる物価指標
CPI=家計が購入する財・サービスの価格変動を測る指標
1人当たりGDP=GDPを人口で割った指標
GNI=国内外からその国の居住者が得た所得を捉える指標
となります。
経済成長を知りたいときは実質GDP、現在の金額ベースの経済規模を知りたいときは名目GDPというように、
「何を知りたいのか」によって両者を使い分ける
ことが大切です。
参考資料・出典
-
内閣府 経済社会総合研究所「国民経済計算(GDP統計)」
― 日本の四半期・年度GDPについて、名目・実質の実額、成長率、GDPデフレーターなどを公表 -
内閣府 経済社会総合研究所「GDPとGNI(GNP)の違いについて」
― GDPを「国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額」と説明し、国内概念と国民概念の違いを解説 -
内閣府 経済社会総合研究所「国民経済計算の作成方法」
― 名目値を各種デフレーターで実質化して実質GDPを推計する方法や、GDPデフレーターを名目GDPと実質GDPから算出する仕組みを解説 -
総務省統計局「第75回 日本統計年鑑―国民経済計算 用語の解説」
― 名目値を実際の市場価格に基づく値、実質値を物価の上昇・下落分を取り除いた値、デフレーターを名目値から実質値を算出するための価格指数として説明 -
総務省統計局「世界の統計2026」
― GDPの実質成長率を、名目GDPから物価変動による影響を除いた実質GDPの増減率として掲載
※本記事では、名目GDPを「現在価格で見たGDP」、実質GDPを「物価変動を取り除いたGDP」という基本的な違いで説明しています。実際の国民経済計算は、多数の財・サービスについて詳細な価格指数等を用いて推計されています。
※現在の日本の実質GDPは連鎖方式で算出されています。「基準年の価格で計算する」という説明は基本概念を理解するには便利ですが、実際の公式統計を単純な固定基準年方式だけで説明するのは正確ではありません。
※GDPデフレーターは名目GDPと実質GDPの関係から事後的に算出される物価指標です。CPIとは対象範囲・計算方法が異なるため、両者の上昇率が一致するとは限りません。
※GDPは国全体の経済活動を把握する重要な指標ですが、個々人の生活水準や幸福度を直接表す指標ではありません。生活実態を見る場合には、1人当たりGDP、賃金、可処分所得、物価なども併せて確認する必要があります。
