高齢の家族が病院を退院する際や、自宅での介護が難しくなった際、入所先の候補となるのが「介護老人保健施設(老健)」と「介護医療院」です。
どちらも介護保険を利用でき、医師や看護職員による医療的な支援を受けながら生活できる施設ですが、その目的には大きな違いがあります。
介護老人保健施設は、自宅などへの復帰を目指してリハビリや介護を受ける施設です。一方、介護医療院は、長期的な医療と介護の両方が必要な人が療養しながら生活する施設です。
そのため、同じ要介護度でも、本人の病状や退院後の生活目標によって適した施設は異なります。
この記事では、両施設の基本的な違いから、入所条件、医療・看護体制、リハビリ、費用、入所期間まで詳しく比較します。具体的なケースを交えながら、施設選びで確認すべきポイントも解説します。
結論|介護老人保健施設と介護医療院の最大の違いは「入所の目的」
介護老人保健施設と介護医療院は、いずれも介護保険法に基づく介護保険施設です。しかし、制度上、中心となる役割が異なります。
- 介護老人保健施設:病状が比較的安定し、リハビリや介護を受けながら自宅などへの復帰を目指す人のための施設。
- 介護医療院:長期的な医学的管理や介護が必要な人が、医療を受けながら生活するための施設。
例えば、骨折による入院後、歩行能力の回復を目指してリハビリを続けたい場合は、介護老人保健施設が候補となります。
一方、慢性疾患があり、日常的な医学的管理を必要としながら、長期にわたって介護を受ける必要がある場合は、介護医療院が候補となります。
ただし、介護老人保健施設でも必要な医療や看護を受けられますし、介護医療院でも機能訓練を受けられます。どちらか一方にしか医療やリハビリがないわけではありません。
大切なのは、本人が必要とする医療の内容と、今後どのような生活を目指すのかを明確にすることです。
【徹底比較】介護老人保健施設と介護医療院の違いを一覧表で解説
まずは、両施設の違いを比較表で確認しましょう。
| 比較項目 | 介護老人保健施設(老健) | 介護医療院 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 在宅復帰・在宅療養の支援 | 長期療養と日常生活の支援 |
| 対象者 | 原則として要介護1~5 | 原則として要介護1~5 |
| 想定する状態 | 病状が比較的安定し、リハビリや介護が必要 | 長期的な医療と介護の両方が必要 |
| 医師の配置 | あり | あり |
| 看護・介護 | あり | あり |
| リハビリ | 在宅復帰に向けたリハビリを重視 | 病状や生活機能に応じた機能訓練 |
| 医療体制 | 病状が安定した人への医学的管理が中心 | 長期療養に必要な医学的管理を重視 |
| 入所期間 | 在宅復帰に向けて定期的に継続の必要性を検討 | 長期入所を想定 |
| 看取りへの対応 | 施設の方針・体制により対応 | 看取り・ターミナルケアも重要な役割 |
| 主な費用 | 施設サービス費・居住費・食費など | 施設サービス費・居住費・食費など |
| 向いているケース | 退院後にリハビリを続け、自宅での生活再開を目指したい | 医療と介護を継続して受けられる生活環境が必要 |
このように、両施設は提供するサービスに共通点があるものの、在宅復帰を中心に考えるか、長期療養を中心に考えるかという違いがあります。
なお、特別養護老人ホームとの違いも含めて施設を検討したい場合は、「特別養護老人ホーム」と「介護老人保健施設」の違いも参考になります。
介護老人保健施設とは?在宅復帰を目指すための施設
介護老人保健施設の基本的な役割
介護老人保健施設は、病状が安定している要介護者に対して、医学的管理のもとで看護・介護・リハビリなどを提供する施設です。
一般的には「老健」と略されます。
大きな特徴は、施設で生活すること自体を最終的な目的とするのではなく、自宅などで再び生活できるよう支援する点です。
例えば、肺炎や骨折で入院していた高齢者が、退院後すぐに自宅へ戻ることに不安がある場合、老健でリハビリや生活支援を受けることがあります。
医療・看護・リハビリを一体的に提供する
老健には医師、看護職員、介護職員のほか、理学療法士や作業療法士などが配置されています。施設の体制によっては言語聴覚士による支援も受けられます。
利用者の状態に応じて、歩行訓練、立ち上がり訓練、食事や着替えなどの日常生活動作の練習を行います。
単に筋力を高めるだけではなく、自宅で安全に生活するための能力を維持・回復させることが重要です。
入所中から退所後の生活を考える
老健では、入所中の状態だけでなく、退所後に必要な介護サービスや家族の支援体制も考慮します。
自宅に戻る場合、住宅環境の見直し、福祉用具の導入、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの利用などを検討することがあります。
退所後のリハビリを考える際は、「訪問リハビリテーション」と「通所リハビリテーション」の違いを理解しておくと、生活環境や身体状況に応じたサービスを検討しやすくなります。
介護医療院とは?医療と介護を受けながら長期療養する施設
介護医療院の基本的な役割
介護医療院は、長期的な医療と介護の両方を必要とする要介護者のための施設です。
2018年4月に創設された介護保険施設であり、医療を提供する機能と、日常生活の場としての機能を併せ持っています。
例えば、慢性疾患によって継続的な医学的管理が必要であり、自宅では十分な介護体制を確保することが難しい人などが利用対象となります。
医療的な支援を受けるだけでなく、生活の場として入所者の尊厳やプライバシーに配慮することも重視されています。
Ⅰ型とⅡ型の違い
介護医療院には、主にⅠ型とⅡ型という施設類型があります。
| 区分 | Ⅰ型 | Ⅱ型 |
|---|---|---|
| 想定する利用者 | 比較的重い病状や身体疾患などがあり、医療の必要性が高い人 | Ⅰ型と比べて比較的病状が安定している人 |
| 医療体制 | より手厚い医療職の配置基準 | 介護老人保健施設相当以上の医療職の配置基準 |
| 共通する役割 | 長期療養・日常生活支援 | 長期療養・日常生活支援 |
ただし、Ⅰ型だから必ず特定の医療処置に対応できる、Ⅱ型だから対応できないという単純な区分ではありません。
実際に受けられる医療処置や看護体制は施設ごとに異なるため、入所前の確認が必要です。
看取りやターミナルケアにも対応する
介護医療院では、人生の最終段階における医療や介護も重要な役割とされています。
病状が進行しても、本人や家族の意向を踏まえながら、慣れた生活環境で療養を継続することを目指します。
ただし、すべての医療処置や急変への対応を施設内で完結できるわけではありません。施設の医療体制では対応できない場合、協力医療機関などへの入院が必要になることもあります。
入所条件の違い|どちらも要介護1から利用できる?
老健と介護医療院は、いずれも原則として要介護1~5の認定を受けている人を対象としています。
要支援1・2の人は、原則として入所できません。
ただし、要介護認定を受けていれば、必ず希望する施設に入所できるわけではありません。
老健に入所する場合
介護老人保健施設では、病状が比較的安定しており、施設でのリハビリや医学的管理、介護が必要かどうかを判断します。
継続的な高度医療や急性期治療が必要な場合、施設の体制では受け入れが難しいことがあります。
介護医療院に入所する場合
介護医療院では、長期的な療養が必要かどうかや、施設で対応できる医療・介護の内容などを総合的に判断します。
要介護度だけではなく、病状、必要な医療処置、認知症の症状、日常生活に必要な介助の内容なども考慮されます。
どちらの施設でも、まず本人の要介護度と医療上の必要性を確認することが大切です。
医療体制の違い|医師や看護職員は常駐している?
老健と介護医療院には、いずれも医師や看護職員の配置基準があります。
ただし、医師の配置人数、看護・介護職員の配置基準、夜間の医療体制などは、施設の種類や類型によって異なります。
老健の医療体制
老健では、医師による医学的管理のもと、看護や介護、リハビリを提供します。
入所者の体調管理や病状の観察、必要な治療、服薬管理などを行います。
一方、病状が急変した場合や、施設で対応できない治療が必要になった場合には、協力医療機関などへの受診・入院が必要です。
介護医療院の医療体制
介護医療院は、長期的に医学的管理を必要とする人を対象とするため、慢性期の医療や看護を重視しています。
ただし、人工呼吸器、経管栄養、喀痰吸引などへの対応可否は、施設の人員配置や設備、医療体制によって異なります。
医療処置が必要な場合は、施設の種類だけで判断せず、具体的な処置内容を伝えて受け入れ可能かどうかを確認しましょう。
リハビリの違い|身体機能の回復を目指すならどちら?
老健と介護医療院では、どちらも利用者の状態に応じたリハビリや機能訓練が行われます。
ただし、施設の目的によって、リハビリで重視する内容は異なります。
老健は在宅復帰に向けたリハビリが中心
老健では、退所後の生活を具体的に想定し、必要な身体機能や日常生活動作の維持・回復を目指します。
例えば、自宅のトイレまで歩けるようになること、ベッドから安全に立ち上がれること、食事や着替えをできる限り自分で行えるようになることなどが目標となります。
家族の介護負担も考慮しながら、在宅生活に必要な能力を高めていきます。
介護医療院は療養生活を支える機能訓練を行う
介護医療院でも、身体機能の維持や生活動作の改善を目的とした機能訓練が行われます。
ただし、長期療養が必要な人を主な対象としているため、病状の安定や日常生活の維持、身体機能の低下防止などを重視する場合があります。
リハビリの回数や内容は、利用者の状態や施設の方針によって異なります。施設を選ぶ際は、本人に必要な訓練を受けられるかどうかを確認することが重要です。
入所期間の違い|老健には3か月しか入れない?
老健について調べると、「原則3か月しか入所できない」という説明を見かけることがあります。
しかし、すべての利用者が3か月で退所しなければならないという法律上の一律の期限があるわけではありません。
老健は定期的に入所継続の必要性を検討する
老健では、入所後も本人の心身の状態や家庭環境などを踏まえ、継続して施設で生活する必要があるかどうかを定期的に検討します。
在宅復帰が可能になれば、退所後の生活に向けた支援を行います。
一方、リハビリの進み具合、病状、家族の介護体制などによって、入所期間が長くなる場合もあります。
そのため、入所前に退所の判断方法や長期入所の可能性について確認しておくことが大切です。
介護医療院は長期入所を想定している
介護医療院は、長期間にわたって医学的管理や介護が必要な人の生活を支える施設です。
老健のように在宅復帰を中心的な目的としているわけではないため、長期入所を想定しています。
ただし、病状の変化や本人の希望、施設で提供できる医療の範囲などによって、転院や他施設への移動が必要になる場合もあります。
費用の違い|月額料金はどちらが安い?
老健と介護医療院の費用は、要介護度、施設の類型、居室の種類、介護保険の自己負担割合などによって変わります。
どちらか一方が必ず安いというわけではありません。
基本的には、次の費用が必要です。
- 介護保険の施設サービス費の自己負担分
- 居住費
- 食費
- 日常生活費
- 施設によって必要となるその他の実費
施設サービス費の自己負担割合は、本人の所得などに応じて原則1~3割となります。
また、同じ施設であっても、多床室と個室では居住費などに違いが生じます。
費用を比較する際の注意点
施設を比較するときは、施設サービス費だけでなく、毎月支払う総額を確認する必要があります。
例えば、施設サービス費が比較的安くても、個室の居住費や日常生活費を含めると、月額の総負担が高くなることがあります。
医療上の必要性だけでなく、長期的に費用を負担できるかどうかも重要な判断材料です。
負担軽減制度を利用できる場合もある
所得や資産などの条件を満たす人は、介護保険負担限度額認定によって、施設の食費や居住費の負担が軽減される場合があります。
また、施設サービス費の自己負担が高額になった場合には、高額介護サービス費の対象となる可能性があります。
両制度の対象となる費用や仕組みについては、「高額介護サービス費」と「負担限度額認定」の違いで解説しています。
なお、具体的な費用は介護報酬改定や自治体、施設ごとの料金設定によって変わるため、入所を検討している施設から最新の料金表を取り寄せて確認しましょう。
【実践】介護老人保健施設と介護医療院の選び方
ここからは、実際に施設を選ぶときの考え方を具体的なケースで解説します。
ケース1:骨折で入院し、退院後も歩行訓練が必要
入院中に病状が安定したものの、歩行能力が低下しており、すぐに自宅へ戻ることが難しいケースです。
この場合は、在宅復帰に向けたリハビリを重視する老健が候補となります。
本人がどの程度まで身体機能の回復を目指せるのか、退所後に家族がどのような介護を担えるのかを確認しながら、入所を検討します。
ケース2:慢性疾患があり、長期的な医学的管理が必要
慢性疾患によって継続的な医療や看護が必要であり、自宅での介護が難しいケースです。
この場合は、長期療養を想定している介護医療院が候補となります。
ただし、必要な医療処置に対応できる施設かどうかを確認する必要があります。
ケース3:医療的な支援は少ないが、自宅で生活できない
日常的な医学的管理の必要性は高くないものの、食事、排せつ、入浴などで継続的な介護が必要なケースです。
この場合、老健や介護医療院だけでなく、特別養護老人ホームなどの生活施設も選択肢になります。
必要な支援が主に医療なのか、リハビリなのか、日常生活の介護なのかを整理することが重要です。
施設を見学するときに確認したいこと
施設の名称や類型だけで判断せず、実際のサービス内容を確認しましょう。
- 本人に必要な医療処置に対応できるか
- 夜間や休日の看護体制はどうなっているか
- 病状が急変した場合、どの医療機関と連携するか
- リハビリの内容や実施頻度はどの程度か
- 入所期間の目安や退所の判断方法はどうなっているか
- 看取りへの対応方針はどうなっているか
- 居住費や食費を含む月額費用はいくらか
- 本人の生活習慣や希望に配慮してもらえるか
特に、医療処置の対応範囲と夜間の看護体制は、入所後の安心につながる重要な確認事項です。
病院から退院する場合は、主治医、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどにも相談しながら候補施設を検討するとよいでしょう。
FAQ|介護老人保健施設と介護医療院のよくある質問
Q1. 介護老人保健施設と介護医療院は、どちらも要介護1から入所できますか?
はい。どちらも原則として要介護1~5の人が対象です。ただし、要介護認定を受けていることに加え、施設の目的や本人の病状、医療・介護の必要性などを踏まえて入所の可否が判断されます。
Q2. 老健には3か月以上入所できないのですか?
一律に3か月で退所しなければならないわけではありません。本人の状態や在宅復帰の可能性などを踏まえて、定期的に入所継続の必要性を検討します。
Q3. 介護医療院でもリハビリを受けられますか?
はい。介護医療院でも、利用者の状態に応じた機能訓練を受けられます。ただし、在宅復帰に向けた集中的なリハビリを希望する場合は、老健も含めて具体的な実施内容を比較することが大切です。
Q4. 介護医療院に入所すれば、病状が悪化しても病院に移る必要はありませんか?
必ずしもそうではありません。介護医療院では長期療養に必要な医療を提供しますが、施設の医療体制では対応できない急性期治療などが必要になった場合、医療機関への入院が必要になることがあります。
Q5. 老健から介護医療院に移ることはできますか?
可能です。例えば、老健でリハビリを受けていた人が、病状の変化により長期的な医学的管理を必要とするようになった場合、介護医療院への入所を検討することがあります。ただし、移動先の施設が受け入れ可能かどうかの確認が必要です。
Q6. 介護医療院と病院は同じですか?
同じではありません。介護医療院は、医療と介護を一体的に提供する介護保険施設です。病院のような医療機能を備えながらも、長期療養する人の日常生活の場としての役割を併せ持っています。
まとめ|在宅復帰か長期療養かを基準に選ぼう
介護老人保健施設と介護医療院は、どちらも医療・看護・介護を受けられる介護保険施設ですが、中心となる目的が異なります。
- 介護老人保健施設:病状が比較的安定し、リハビリや介護を受けながら自宅などへの復帰を目指す人に適しています。
- 介護医療院:長期的な医学的管理と介護が必要で、医療を受けながら生活する必要がある人に適しています。
施設選びで大切なのは、本人の要介護度だけではなく、病状、必要な医療処置、リハビリの目標、今後の生活の希望などを総合的に考えることです。
家族だけで判断するのではなく、主治医やケアマネジャーなどと相談し、具体的な施設の医療体制やサービス内容を確認したうえで、本人の状態に合った入所先を検討しましょう。
